大学3年から医学部受験専門予備校へ、そして獨協医科大学医学部合格

教育実習に参加し、「教師ってなんてすばらしい仕事なんだろう」と感激し、教員免許の取得を決意した。このときばかりは輝哉氏も「取得単位数が増えるし、医学部の勉強にもさしさわるから、やめた方がいいのでは?」とアドバイスしたが、「とにかく資格を取れって口うるさく言ってきたのは誰だ!?」と一蹴し、見事、中学・高校の保健体育の教員免許を取得した。

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大学3年からは、輝哉氏が選び抜いた医学部受験専門予備校メディカルフォレストにも通い、本格的に勉強に打ち込んだ。

「父にうまく洗脳され、レールに乗せられているな、と感じることはありますが、いつでもやるかやらないか、最終決断してきたのは私です。父にも、世間にも、自分にも負けるのはイヤだから、とにかく結果を出して見返してやりたい。それが私なりの反骨精神なんです」(沙羅選手)

「最後の最後まで全力で沙羅を守る」と決めた輝哉氏は、その言葉どおり、各大学の入試傾向を徹底リサーチしていた。

群馬大学医学部学士編入学試験は生命科学の問題が大学院レベルで難問、帝京大学一般入試は3日間受験して一番成績のいい試験結果が反映される、東海大学で学士編入するなら62単位以上を取得しておくこと。

国際大会の間隙を狙った試験日程の組み立て、予備校の選択基準などなど、医学部受験コンサルタントばりの情報収集を行ったのだ。そして数ある選択肢の中から、沙羅選手は、複数の学士編入学試験を経て、獨協医科大学医学部AO入試をクリアしたのだ。

マニキュア&ペディキュア“普通”の女の子の素顔も同居する柔道家

現在、沙羅選手は医学部の勉強とトレーニング漬けの毎日を送っている。

「楽しいですね。同級生は18歳の現役合格生から、上は27歳までいて、東海大学体育学部とはまた違った大学生活を満喫しています。田舎だから、誘惑もないので柔道と勉強だけに集中できるのもありがたいです」

獨協医科大学柔道部は新型コロナウイルス感染対策で活動休止のため、沙羅選手は今、大学の近くにある栃木県立宇都宮高等学校の柔道部(男子)と一緒に練習をしている。もちろん、輝哉氏も時間を見つけては顔を出し、娘のために一緒に汗をかいている。

撮影=市来朋久
一緒に練習をしている栃木県立宇都宮高等学校柔道部の市川敦俊監督(1列目右)と部員たち。

「いつか殺してやる」とまで反発した父と、ぶつかり合いながらも折り合って、しっかりと結果を出し続けた沙羅選手の精神力は、まさに世界的アスリートのそれである。

「将来の夢ですか? 今は医学部の勉強についていくことと、東京オリンピックですけど、その先は……、普通になりたいですね。異常な朝比奈家で育ったから、とにかく普通に生きることが小さい頃からの夢だったんです。結婚して、お母さんになって……(笑)。『医者になったら、誰と結婚してもいい』とテルヤさんに言われているので、それをモチベーションに、がんばっています」

そうほほ笑む沙羅選手の手足の爪は、マニキュアとペディキュアでかわいらしく飾られている。文武を極めた柔道家には、24歳の“普通”の女の子の素顔も同居していた。

撮影=市来朋久
沙羅選手の手足の爪には、マニキュアとペディキュアが
(文=田中義厚 撮影=市来朋久)
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