「月額8万2000円で泊まり放題」のサービスに申し込んだ

もともと、自然の中で暮らしたいというアウトドア志向。狭い家の中で息が詰まりそうになった。

「もう東京に住んでいる理由はない。浮いたお金を自分に投資しよう」。5月下旬に賃貸契約の解約を申し出た。

実際の退去は7月。それまでの間で、これからどのように暮らしていくか考えた。シェアハウスか、郊外の賃貸住宅か。幸い、出身は神奈川県川崎市だ。いざとなれば実家に戻ればいい。気楽にWebで調べていると、あるサービスのキャッチコピーが目に留まった。

「世界を旅して働こう」

思わずクリックした。小林さんは本業の温故知新に加えて、フリーランスとして全国各地で観光関連のコンサルティングや地方創生の企画も手掛ける。「旅して働く」というのは自分にぴったりの暮らし方に思えた。

「HafH(ハフ)」。サブスクリプション方式(商品やサービスを購入するのではなく一定期間の利用権に対して月額などで料金を支払う方式)で世界中のホテルなどに“住める”サービスだ。泊まり放題で月額8万2000円(税込み)。「安くはない」と思ったが、現在のマンションの家賃と比較するとお釣りが来た。

私は定住場所をなくすことはできないと思う

緊急事態宣言が解除された後も、小林さんの働き方はほぼテレワークになった。「これなら全国を転々としながらでも働ける」。そう考えてHafHの利用を決めた。7月に中目黒のマンションを引き払い、利用頻度の低い荷物を実家に運び入れた。数日暮らせる分の荷物をバックパックに詰め込んで、新しい世界に飛び出した。

写真=iStock.com/thebigland88
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それでも「定住場所をなくすことはできない」

7月以降の小林さんの生活は、例えば以下のようなものだ。

月曜日は、フリーランスとして委託を受けているカフェのプロデュースの仕事で山口県に出張。日中から夕方までクライアントと打ち合わせをし、夜は以前から泊まりたかった現地のホテルに宿泊。火曜日も同じく日中はクライアント側とのミーティングなどをこなし、夜は昨夜と同じホテルに宿泊。水曜日にカフェの仕事が一段落すると、夕方にHafHの山口県内の拠点を探して予約し、宿泊。

木曜日・金曜日は所属する温故知新の仕事を山口でテレワーク。起床し、HafHの拠点に付随するラウンジやカフェで個人ワークを進め、オンラインによるビデオ会議の時間になると部屋に戻ってミーティング。ちょっと休憩したくなったらゲストハウスを飛び出し、周囲を散歩する。土曜日は飛行機で東京に戻り、東京のHafH拠点にチェックイン。夕方にテレワークで仕事を進め、夜は友人と食事。日曜日は神奈川の実家に帰り、そのまま泊まる。

文字通り、小林さんは今、旅をするように働いている。

「疲れないですか?」とよく聞かれる。「疲れたら実家に泊まる」というのが彼女のルールだ。「人にもよると思いますが、私は定住場所をなくすことはできないと思います。『困ったら実家に帰ることができる』というのが肉体的にも精神的にも安定剤になっているから」

所属する温故知新からは「自由な働き方を認められている分、アウトプットの高い質などを求められている」と小林さんは言う。ホテルの企画という職務の特性からも、HafHで全国の様々なホテルに宿泊できることがインスピレーションにつながっている。しばらくはこの働き方を続けるつもりでいる。