屋久島に移住した自然電力代表の働き方

早朝5時に起きて、目の前の海に飛び込む。朝日を見ながらシーカヤックを1時間半程度楽しむ。6時半ごろに“家”に戻ってゆっくり朝食をとり、8時半ごろから仕事に取り掛かる。打ち合わせなどは全てオンラインのビデオ会議だ。昼間に暑くなってきたら冷たい川にドボン。仕事の後は夕食を食べて、夜は温泉に漬かる。

再生可能エネルギー発電施設の開発や事業運営を手掛ける自然電力(福岡市)の磯野謙代表取締役は今、屋久島で暮らしている。

2020年2月中旬。同社は欧州などで新型コロナが流行し始めていたタイミングで、東京や福岡などのオフィスを閉鎖。原則在宅による勤務体制を開始した。東京オフィスに勤務していた磯野氏は3月中旬、休暇を取って家族とともに屋久島を訪れた。自然電力を創業する前から屋久島のエコツーリズム事業に関わっており、なじみがあった。屋久島には同社のゲストハウスもある。10日間から2週間程度、滞在する予定だった。

しかし、滞在期間中に東京を中心に新型コロナの感染が広がり、緊急事態宣言が出る可能性が高くなった。

「このまま屋久島に滞在し続けようか」。家族から異論は出なかった。

大きな理由は、経営者としての意思決定のしやすさにあった。「東京にいたら刻々と状況が変わるカオスの中で、判断が鈍ると考えた。経営者が右往左往するような状況は避けたかった」。磯野氏はこう振り返る。

同社は世界中で再生可能エネルギーの電源開発を手掛ける。もとからビデオ会議は当たり前で、磯野氏が東京にいないことで滞る業務はなかった。共同で代表取締役を務める川戸健司氏も、「『屋久島に残る』と聞いたときも驚かなかった。そういう可能性もあるだろうと思っていた」と話す。

来年以降は2~3カ所の多拠点生活を予定

2019年までは年間で200回程度、飛行機に乗る生活だった。屋久島に残ったことで家族との時間が一気に増えた。業務上も、2020年6月、ゲストハウスに光ファイバーによる通信環境を整備した後は「特段の不便はない」とする一方で、こう続ける。「オンラインだけのコミュニケーションでよいとも思っていない」。緊急事態宣言が解除されてからは定期的に東京に出張し、コミュニケーションが足りないと感じる社員に積極的に話しかける。

21年以降は、東京などの都市部を含め2~3カ所の多拠点生活をしようと考えている。

こうした場所を問わない働き方を模索する動きは、新型コロナの流行以前から始まっていた。次は、「総合職として働きながら世界一周する」という挑戦を始めた個人を紹介したい。