東証1部上場企業の9割で「公的マネー」が大株主

朝日新聞が、東京商工リサーチとニッセイ基礎研究所の協力による推計として報じたところによると、3月末時点で、東証1部上場企業の8割に当たる1830社で発行済み株式の5%以上を持つ実質大株主になっているという。両者の保有分が10%以上になっている会社も約630社に達するという。

ちなみにGPIFや日本銀行の保有株は運用委託先が資産管理に使う信託銀行などの名義になり、両者の名前は表に出てこない。実質筆頭株主でも、名義が表に出ないので、「見えない大株主」となる。

こうした公的資金による民間企業の株式保有は世界の中でも異質で、株式市場の価格形成を歪めている、とみられる。GPIFは前述のように時価ベースで総資産の25%という目安を置いているため、国内株の価格が他の資産(外国株、外国債券、国内債券)よりも下がれば、半ば自動的に買い増しされることになり、「買い支え」効果が生まれる。

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つまり、ファンダメンタルズと呼ばれる経済の基礎的条件や、企業業績が悪化しても、株価はあまり下がらない、ということになるわけだ。

日本企業のコーポレートガバナンスを歪めている

一方で、業績が好転する企業の株が買われる、という一般的な銘柄選定のメカニズムが働きにくくなることで、新型コロナが収束した後、世界の他の市場の企業の株価が大きく上昇する中で、「官製市場」化した日本の株価はあまり上がらない、ということになる懸念もある。まして、将来、日本銀行が金融引き締めに転じてETFを売却したり、年金の支払いが増えてGPIFの運用資産が減っていくことになれば、世界の株価や企業業績とは関係なく、日本の株価だけが下落していくことになりかねない。

もうひとつ大きな問題が、日本企業のコーポレートガバナンスを歪める懸念が強まっていることだ。GPIFや日本銀行は株式を実質保有しているものの、名義が表に出ることはない。株主としての議決権は、両者の基本方針に従って運用委託先が行使することになっている。年金資産を持つ国民の利益を最大にすること、日本銀行の利益最大化につながることなどを前提に運用金融機関の判断で株主総会の議案に賛否を投じるわけだ。

GPIFや日本銀行といった「公的機関」が議決権を行使することには議論がある。国民の資産を投じるのだから国民の利益を考えて議決権行使するのは当然だという意見がある一方、国家が民間企業の経営に口を出すことになり望ましくないという声もある。国が議決権行使に乗り出せば「国有企業」と同じになってしまう。