何が何でも来年夏に開催したい

自民党の最大派閥である清和政策研究会(細田派)が9月28日、都内のホテルで政治資金パーティーを開いた。例年は立錐の余地もないほどの参会者が大会場に集まるが、今年は新型コロナウイルスが終息しない中とあって、12会場に分かれてオンラインでつなぐ異例の光景となった。

さらに異例だったのは、来賓などが壇上に上がって、「オリンピックの実現に向けて、がんばろー」と三唱したことだ。そこには安倍晋三前首相、橋本聖子五輪担当相、萩生田光一文部科学相、そして大会組織委員会会長の森喜朗元首相がいた。

新型コロナが完全に終息しない状況でも、オリンピックを何としてでも開催する姿勢を改めて示したのだ。一部では無観客での開催という見方もあるが、「数百万人に海外から来てもらう」という発言も飛び出し、そのためにPCR検査など受け入れ態勢を検討している、とした。

IOC調整委員会との会合終了後、記者会見であいさつする東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長。奥はジョン・コーツIOC副会長=2020年9月25日、東京都中央区[代表撮影]
写真=時事通信フォト
IOC調整委員会との会合終了後、記者会見であいさつする東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長。奥はジョン・コーツIOC副会長=2020年9月25日、東京都中央区[代表撮影]

菅義偉首相も、官房長官時代から、繰り返しオリンピック開催を主張しており、永田町は、何が何でも来年夏に開催する姿勢で固まっている。

中止なら総額3兆円をドブに捨てることに

選手だけでなく、多くの観客が海外から日本にやってくるとなると、世界的に感染者数や死者数が少ない日本が、再び感染リスクに晒されることになる。国民の間には、開催は難しいのではないか、という感覚を抱く人も少なくないが、政治は前のめりで進んでいる。

政治のキーマンたちが何としてもオリンピックを開催する姿勢を打ち出しているのには、理由がある。観戦のためのチケットがすでに販売され、中止となれば回収・返金が不可欠になる、というだけではない。経済波及効果を期待して、開催に向けてすでに巨額の資金を使ってしまっている中で、中止となれば、総額3兆円を超す資金をドブに捨てたことになる。現役の大臣が責任追及されるだけでなく、森元首相の晩節も汚すことになる。

誘致した際には「世界一コンパクトな大会」にするはずだった東京オリンピック・パラリンピックに投じた資金は、どんどん膨らんできた。会計検査院による2019年12月時点の集計でも、関連する国の支出は1兆円を超えた。さらに東京都が道路などのインフラ整備も含め1兆4100億円、組織委員会が6000億円を支出することになっており、総額は3兆円を超える。

さらに、大会の1年延期が決まったことで5000億円を超す追加費用が発生するとみられている。国際オリンピック委員会(IOC)も追加負担を決めたが、わずか860億円で、大半は国や東京都が負担することになる。