そうした株式市場の投機性に目を奪われてはならない。じつは、円高、世界的な株価の大幅下落、米国企業の疲弊という3点セットは、健全な日本企業にとってはチャンスが到来したことになっているのである。たしかに、実体経済はしばらく厳しい状況が続くだろう。しかし、中期的に見れば、こうした危機の中だからこそ「無事」である企業が名馬たりうるチャンスがきたのである。

円高は、日本企業のこれからの大きな課題であるグローバル化への円ベースのコスト低下を意味している。たしかに、円高による日本からの輸出の競争力低下というマイナスもある。しかし、輸出ではなく生産基地や研究開発基地の本格的海外進出が、これからの日本企業の大きな課題である。人口減少、高齢化という国内の状況を考えれば、企業成長の活路を本格的に海外に求める時代に多くの日本企業が入っている。その際の海外投資のコスト(買収も含めて)を、円高は大きく低下させてくれる。

世界的な株価の下落は、二重の意味で健全な日本企業にとってはプラスである。一つには、海外企業からの買収リスクが小さくなる。株式交換方式をとる買収では、自社の株式は一種の通貨の役割をする。それで他企業が買えるのである。その株式という通貨の価値を世界的な株価の低下は安くさせた。そのうえ、国内企業の株価の低下は国内での産業再編成のコストの低下を意味する。より安い対価での買収が可能になるからである。

パナソニックが三洋電機の買収に乗り出したのは、株価の低下と無関係ではあるまい。しかもパナソニックにはキャッシュがあった。健全な経営改革の努力の結果である。国内産業の再編成は、グローバル化とならぶ日本企業の近未来の大きな課題である。それへの対策を打ちやすくなる効果を株価の低下はもたらしている。

アメリカ企業の疲弊は、たんに日本企業の国際競争の相手の弱体化というだけでなく、アメリカンスタンダードの経営に目を奪われすぎていた日本の企業社会の風潮が健全な「日本の強みを生かす経営」へと戻ってくる契機になるだろう。それは、健全に日本の強みを生かすように地道な努力を続けてきた日本企業にとっては、さらなる自信につながる可能性が強い。