今回の金融危機で損をしたのは誰か

もちろん、こうしたチャンスの要素はあるものの、先進国は同時不況に入るだろう。しかし、世界経済全体がクラッシュすることはないし、恐慌の前夜でもない。中国もインドもロシアもブラジルも、健全な成長が来年も見込まれているのである。ただ、世界経済はかなり減速する。その厳しい状況の影響さえ読み違えなければいいのである。

一つ注意したいのは、今回の危機を「アメリカの終焉」とでも言わんばかりの論調があることである。たしかに、アメリカ一国覇権時代は終わりつつあるのだろう。だが、依然としてアメリカは超大国であり続けるし、ドルは基軸通貨であり続けるだろう。軍事的にも、アメリカの突出した力は変わらない。ただブッシュ時代のような「アメリカのやりたい放題」の時代が終わるだけなのである。

アメリカの終焉ではないことは、ドルの意外な強さ、アメリカ経済の意外なしたたかさに表れている。

ドルは円に対しては安くなったが、円以外の通貨に対しては高くなっているのである。しかも、欧州の金融機関が今回の金融危機で大きな痛手を被っているのは、金融危機でドル取引の機能が縮小してしまい、ドル建てで新興国向けの国際金融を大きく伸ばしていた欧州の銀行が軒なみドル不足で困り始めたからでもある。この事実は、ドルの基軸通貨としての地位をかえって高める奇妙な現象が起きていることを示唆している。アメリカはこの20年間ほど、経常収支の赤字を補うためにドルを発行し続けた。それによって世界のあちこちにドルが貯まり、それが国際金融取引の源泉になっていた。だから、経済的に弱体化していくアメリカの通貨が「ますます」基軸通貨として需要されるという逆説が生まれる。

アメリカ経済の意外なしたたかさは、じつは今回の金融危機で最終的に誰が損をして、誰が得をしたか、を考えることによって見えてくる。意外にアメリカはそれほど大きな損をしていない可能性があるのである。前回のこのコラムで私が書いたように、アメリカ発の証券化商品で世界の投資家、とくに欧州の金融機関が損を出した。もちろん、アメリカの金融機関も損をしたのだが、アメリカの金融機関はそもそもそうした商品を最初に売り出した段階でかなりの収入を得ている。欧州の金融機関は金融商品の発行はせずに取引と投資で儲けようとして、それが損になってしまった。

アメリカが巨額の経常赤字をこの10年間以上、出し続けてきたことは事実である。その経常赤字累積のインパクトをドル建てで少なくするような効果を今回の金融危機はもったのではないか。

もしそうだとすれば、経常赤字問題の解決に今回の金融危機が貢献していることになる。それが意図した戦略だったかどうか、私にはわからない。しかし、アメリカ経済はそれだけしたたかだったのではないか。

(浮田輝雄=撮影)