マイナンバーを使えばスムーズに所得再分配ができる

中間層の二極分化や、働き方改革で進む雇用の流動化、コロナ禍で増加するフリーランスに適切に対応できるセーフティーネットを構築し、国民が安心して生活できる環境をつくっていく必要がある。とりわけコロナ禍というのは、個人が想定していない(あるいは取り切れない)リスクなので、国は可能な限りの支援を行う必要がある。

そのためには国民の所得(収入)をマイナンバーで正確に把握して、きめ細かく効率的なセーフティーネットを構築し支援していくことが考えられる。

ではデジタル技術を活用した所得再分配策とはどのようなものなのか。コンセプトは簡単である。人々の収入や所得をマイナンバーで正確に把握しつつ、余裕のある者にはさらなる負担(所得税・資産税)を求め、困窮者には効果的な(勤労意欲を損なわない)給付や減税を行う、そのための制度作りとインフラの整備である。

ITを活用したこのような制度は、すでに多くの欧米諸国で導入されている。米国では、税務申告時に、低所得者に税の還付を行う制度があり、勤労インセンティブの向上に役立っている。英国では、所得に応じたきめ細かい社会保障給付措置が構築されており、生活支援だけでなく子育て対策にも使われている。欧米諸国がコロナ対策で迅速な給付ができたのは、このような既存の制度を活用したためだ。

マイナンバーの活用は行政や制度をデジタル化するチャンス

今後コロナ禍の進展で、さらなる給付措置も起こりうる。その際には、国民全員に一律給付という無駄なことをやめて、真に困窮している者により手厚く給付できるようにすべきだ。

このような制度を導入するには、マイナンバーによって名寄せされた所得情報を、社会保障給付に連携させる情報連携基盤(インフラ)を構築する必要がある。わが国では2016年1月から番号が導入され、われわれの収入・所得はおおむね番号で把握されている。生活保護や児童手当の支給にはその情報が活用できることとなっているのだが、自治体の現場では、システム連携の悪さや予算不足などからスムーズに連携されているとはいいがたい状況が生じている。

さらに今回の特別定額給付金の支給問題で、政府・自治体の情報連携にさまざまな課題があることが明確になった。管内閣は、行政の縦割りを排しデジタル庁を創設し、医療や教育、さらには給付金や行政事務を効果的かつ効率的に行うことを目指すとしている。筆者も新政権のマイナンバーの活用に参画しているが、先進諸国と比べて大きく出遅れているわが国の行政や制度のデジタル化を強力に進めていく最大のチャンスととらえるべきだ。