もしも感染者が出た場合は
感染予防については各社、各組織ともにトヨタと同様の対応をしているだろうけれど、感染者が出た場合の対応について、トヨタが標準的な手続きを決定したのは早かった。そして、この部分は各社の担当者がもっとも参考にできる。
1 PCR検査を受ける人が出た段階で、対象者の行動範囲を把握する。濃厚接触者も聞いておく。そうして、職場の消毒を実施する。検査結果が出る前に感染予防策を取るということだ。
2 陽性者が出たら、全社で情報を共有する。休日であっても会議を開催する。その際、リモートを活用する。
陽性者の行動記録に基づいて、職場を消毒し、閉鎖する。濃厚接触者は自宅待機にする。2次濃厚接触者(濃厚接触者の濃厚接触者)についても自宅待機にする。これは保健所の決めた原則よりもはるかに厳格な対応だ。
3 工場で陽性者が出た場合、安全を第一としつつも、稼働を継続するため、状況に応じて前後の工程から人員を補充するなどフレキシブルに対応する。
他社の工場ではラインで陽性者が出たら、前後の工程を担当できず稼働維持できないケースもあるから、工場全体の稼働を停止するしかない。
トヨタの場合はトヨタ生産方式にのっとって作業している。作業者は多能工になっていて、前後の工程の作業ができるようになっている。補充人員に新たな教育をしなくとも、ラインに参加できる人数がいる。工場をすべて停止しなくとも生産の継続ができる。
「非稼働日」に社員は何をしているか
4 「非稼働日」を設定する。トヨタの生産現場には「非稼働日」というものがある。災害などで部品が届かなくなり、生産調整が必要となったら、対策会議で検討し、組合とも協議して、2種類の非稼働日を設定する。
ひとつは、全工場が非稼働となる場合は完全休日とし、カレンダー振り替えを行う日。そしてもうひとつは、全工場非稼働とならない場合、出勤するが生産は行わない。新型コロナ危機では国内の全完成車工場(全15工場)において、生産を行わない非稼働日を工場ごとに作った。
後者の場合、工場の稼働は止め、生産は行わないが、出勤はする。出勤した作業者は改善や清掃などの作業をするか、もしくは有給休暇に振り替えて、休むこともできる。出勤はするけれど、生産活動は行わない。もちろん、給料は出る。
それは学生が学校へ行って自習するようなものだ。工場へ行き、原価低減につながる作業の見直しや各種の改善、ラインの敷設など、日頃できなかった細かい清掃などをしながら、自分の仕事のやり方を考える。工作機械を見つめて補修してもいいし、仕事に関係する本を読んでもいい。何かをしてはいけないということはなく、好きなように勉強していい。
非稼働日には精神がリラックスするというメリットもある。これはメーカーだけでなく、他社も真似できる制度だと思う。
※この連載は『トヨタの危機管理』(プレジデント社)として2021年に刊行予定です。