歴代で最も多くのコーヒーを売った女になった

そんなこんなで、わたしは歴代で最も多くのコーヒーを売った女になった。

岸田奈美『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)

春の高校野球センバツの日、わたしに売上順位を抜かれたソフトドリンク売り子の「嘘やろお前」という顔だけは忘れない。

歴代のコーヒー売り子たちの無念を……わたしが……! わたしが……!

待ちに待った、バイトの契約更新の日。これはもう、あこがれのビール売り子に昇格待ったなしだろうと、思ってたんですけどね。

「岸田さん、次は風船売ってよ、ジェット風船! 岸田さんなら売り方考えてくれるでしょ」

考えてくれるでしょ、じゃねえよ!

こっちはトンチやってんじゃねえんだよ、バカ!

結局ビールを売ることなく辞めたが、生まれ変わったら南という名前になって、一度でいいからアサヒスーパードライを売ってみたい。

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