「カワイイ人」はだいたい酒類を売っている
まず、甲子園球場のビールっていうのは、ほぼアサヒが独占していた。わたしが憧れてたピンクのスカートをはいて「アサヒスーパードゥルァイいかがですか?」といってるやつだ。
そして群れをなすアサヒの中、わずかながら赤い制服のキリンがいる。
ついては、わたし個人の感覚ではあるが、キリンの売り子の方がカワイイ人が多かったように思う。もちろん、アサヒもカワイイ。カワイイ人は、だいたい酒類に配属されてる。ビールとか酎ハイとか梅酒とか。
理由はいわずもがなである。どうせならカワイイ子から買いたいのがお客さんの総意だ。年間シートを契約している常連のお客さんなら、お気に入りの売り子からしか買わない、って人もいたりする。
次いで多いのが、ソフトドリンク、アイスクリーム、かち割り氷。この辺になってくると、男子も混じってくる。
その中でもホットコーヒーなんて、レア中のレアなわけ。絶対、利益を考えて投入された枠ではない。「なんかおもしろそうだし入れとくか」的な気まぐれ枠だ。
運営の気まぐれで生み出された、悲しいモンスターがわたし。
卍の敷田をリスペクトしすぎたばっかりに。
そういえば、父はこんなこともいっていた。
「お前が生まれた瞬間、あっこれは南って顔じゃない……って思って、奈美にした」
美人に……美人に生まれてさえいればっ……!
売り子の中には、腕章をつけている人がいる。
「ビール内野席1位」とか「酎ハイ外野席2位」とか。そのエリア内での売上順位だ。ビール内野席1位の腕章の子とか、冗談かと思うくらいにカワイイ。
売り子のシステムはアイドルの世界そっくり
甲子園の売り子っていうのは、めちゃくちゃに競争心をあおられるシステムに組み込まれている。当時はまだAKBとか流行る前だったけど、確実にあの業界のそれである。
アイドル。まさにアイドルの業界と遜色ない。
商品補給するとき、バックヤードへと戻るのだが、そこにでっかい電光掲示板がある。いま、どこどこ所属のだれだれが何杯売り上げて、何位とかが常に表示されている。
樽にビールを補給するマネージャーにはなぜかイケメンが多くて。マネージャーがビールを注ぎながら、売り子をひとりずつ励ましてくれるのだ。
「エミ、今日も2位じゃん! この調子でどんどん売ってこ!」
爽やかさ150%で声をかけている。たまにタオルなんかもらっちゃってさ、これこそ青春。