岸田奈美さんは「100文字で済むことを2000文字で伝える」をモットーにする異色の作家だ。障害のある母や弟のことからブラジャーの話まで、その独特の語り口が人気を集めている。岸田さんはなぜ作家になったのか。本人がその理由を綴った――。

※本稿は、岸田奈美『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)の一部を再編集したものです。

羽ペン
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何度も同じ話をするのに、落語は笑える

風が吹けば、どうなるか。

桶屋おけやがもうかる。

ご存じの通り、桶屋おけやがもうかるのである。すごい。一見して意味がわからんのに、みんなわかってんのが、すごい。

ところで「風が吹けば桶屋おけやがもうかる」とは、十返舎一九じっぺんしゃいっくが書いた東海道中膝栗毛とうかいどうちゅうひざくりげという作品で書かれた話だ。いいよね。十返舎一九じっぺんしゃいっく。一度は口に出していいたい名前ナンバーワンだよね。東海道中膝栗毛とうかいどうちゅうひざくりげはつくり話だけど。元になった実話もあるとか、ないとか。あえてつくり話にしたのは、読者を笑わせたかったからだとか。

わたしが大好きなラーメンズというお笑いコンビは、それをコントにした。映像で1000回以上は見たと思うが、いまでもゲラゲラ笑える。

笑い話といえば、落語もすごい。「まんじゅうこわい」とか、普通は意味わかんないじゃん。でも、わかるじゃん。こわいじゃん。

落語家さんって、何度も何度も、同じ話をするのに笑っちゃう。江戸時代からずっと、同じ話をしてるのに。一度話しはじめればみんなの頭に情景が浮かんで、笑っちゃう。冷静に考えたら、本気ですごいことだと思うの。

人を泣かせるよりも、笑わせる方がかっこいい

話は突拍子もなく変わるが、わたしは昔から、人を泣かせることよりも、笑わせることの方がかっこいいと思っている。泣いているわたしを笑わせてくれた人たちが、大いに影響している。ラーメンズ。藤子・F・不二雄。さくらももこ。向田邦子。又吉直樹。漫画『波よ聞いてくれ』の主人公・鼓田こだミナレ。

そして、わたしの父、岸田浩二。この人たちがつくった話は、いま思い出しても笑えるし、だれかに話してみても、笑いの輪がさらに広がる。

ずっと、あこがれてた。でもわたしにはずっと「笑わせる才能」がなかった。

その代わり、わたしには「忘れる才能」があった。