YouTubeを理解できるのは、10歳を過ぎてから
また、物心がついていないわが子の姿をYouTube動画などでインターネット上にアーカイブしていく行為には、こんな危険性もある。
「2歳後半から子供はペラペラしゃべるようになりますから、カメラやスマホで撮られている行為の意味もわかっていると親は思い込みがちですが、〈自分が感じている自分と他者が見ている自分は違うんだ〉と子供が気付くのには、けっこう時間がかかるんです。ましてや、不特定多数が視聴可能なYouTubeというメディアの仕組みが本当に理解できるようになるのは、おそらく10歳を過ぎてから。にもかかわらず幼児期のわが子の動画を次から次へとアップしていると、何年か後にそれをネット上で確認した子供が、〈お母さんがあの時私を撮っていた動画は、家族内での記録のためじゃなくて全部ネット上に放出していたのか〉と気付き、親に失望したり衝突したりすることも起こり得ます。これはYouTubeではありませんが、フェイスブックだと13歳以上にならないとアカウントを持てない決まりになっているのは、やはり人間の認知発達の観点から、13歳未満の子供が画像付きのSNSを使う危険性を考慮してのことだと思います」
感情が赴くままの本来の姿なのか、視聴者受けのため親に誘導されての演技なのかわからない映像がネット上に大量に残っていると、子供には〈これが本当の自分なのか?〉というアイデンティティーの不安が出てくるのはもちろん、自分の情報を自分で管理できていないことへの不満も当然生まれる。
「アメリカやイギリスでは、親子間で訴訟沙汰になっている例もあるのです。『他者の目から守られる』というのは、子供の大事な権利のひとつ。YouTubeでの露出はそこがないがしろにされる危険性があることを、親にはわかっていてほしい。『うちの子は映りたがるんですよ』というお父さん、お母さんも多いのですが、2歳、3歳の子供にYouTube上で自分の姿をさらすことの意味を十分理解することはできないのです」
冷たい傍観者になってはいけない
それでもやはり、自我が確立する以前のかわいいわが子の姿を、YouTube上に残しておきたいと望む親はいるだろう。
「まず誤解していただきたくないのですが、私は自分の子供を人気者にしたいという親の気持ちを否定しているわけではありません。しかし、愛着形成の不全や、親が絶対的な安心の対象でなくなる危険性、そして自身のプライバシーやアイデンティティーが守られない不安を子供が感じてしまうといったリスクもあることも、お父さん、お母さんにはしっかり自覚しておいていただきたいのです」
では動画作成の際、具体的にどのような点に留意すればよいだろうか。
「子供をこういうふうに見せたいといった演出プランは、持つべきではないでしょうね。演技などさせずに、観察者としてありのままの姿を撮影してはどうでしょう。どうやって歩くのかなとか、初めて猫を見た時に恐がるかなとか、子供が内発的に発達しようとしている様子を見守るとか。それを冷たい傍観者としてではなく、親として温かい援助ややり取りをしながら撮ってみるんです。そうした動画なら家族にとって価値あるものとなるのはもちろん、視聴者の目にも気持ちのいいコンテンツになるのではないでしょうか」
YouTubeというメディア自体が、子供にとって害毒なのではない。発信者側、つまり親の意識の持ち方ひとつで、それを現代らしい魅力に満ちた成長発達の記録装置とすることもできると、沢井氏は語っているのである。