「ママ、ちゃんと聞いてよ」という不満
そしてその年代の子供には発達上、欠かすことができないものがある。
「親子の愛着関係です。2歳ぐらいまでの間に大好きな人、例えば母親が全部自分のことを受け止めてくれて、その大好きな人の真似をすることで、子供は世界というものを学んでいきます。こうした愛着の感情と思考能力は密接に関わっていますから、愛着関係の安心感の中で、2歳の後半から爆発的に言葉が話せるようになるわけです。ところがその時期の愛着関係が希薄だと、身体や言語の発達にまで遅滞が生じやすいことが研究で報告されています」
子供時代の愛着形成が不全だと、物心がついて以降、親を信用できなかったり、社会性において十全な発達を遂げられなかったり、不安障害になったりする例が報告されている。
しかしネット上にあふれる幼児が主役のYouTube動画には、専門家の目からすれば首をひねらざるを得ないものも散見されるという。
「撮影者である親が、被写体の子供に対して親らしい反応をせず、ビデオカメラやスマホの撮影に没頭することが日常化すれば、〈ママ、ちゃんと聞いてよ〉〈パパ、ちゃんと遊んでよ〉といった不満が蓄積しかねません。子供にとっては、生のままの親の人格が感じられないわけですから」
カメラの前で“演じる”ことのリスク
それどころか再生回数やチャンネル登録数を増やすため、わが子にある種の“演技”を要求するユーチューバーも少なくない。例えば、視聴者がかわいらしいと感じるであろう言動を幼児に強いたり、普段はしっかりした言葉をしゃべっているのに、あえて実年齢より幼い口調で「ちゃんねうとーろく(チャンネル登録)、お願いちまちゅ」などと、動画の最後に呼びかけるセリフを言わせたりといった類いのことだ。
しかし、子供が親の思い込みや偏見からの要求に素直に応じて、カメラの前で“演じる”ことが常態化すると、その子の自然な人格が発露する機会は奪われてしまう。
「カメラの向こうの視聴者に『かわいい』と思わせるような定型化した言動を行うことがコミュニケーションだ、と勘違いして学習した結果、実際に他人と対面した際に、相手の個性を理解しようとしたり、自分の思いをありのままに伝えようとする努力をしなくなる恐れがあります。小手先のしぐさ、声色、セリフ回しの演技を選ぶ癖がついてしまい、その子本来の人格の幹が太っていかなくなる可能性が考えられるのです」