なんでこんなにバカが多いのか。日々のニュースを見て、そう思う人もいるだろう。フランスの心理学者セルジュ・シコッティは、「世の中にバカが存在することは事実だが、わたしたちの心にも『ネガティビティ・バイアス』という、他者のネガティブなところばかりが目についてしまう偏りがある」と指摘する――。

※本稿はジャン=フランソワ・マルミオン編、田中裕子訳『「バカ」の研究』(亜紀書房)の一部を抜粋・編集したものです。

古い木の床で頭を失ったヴィンテージのロボット
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バカな「言動」の原因に着目する心理学

あらかじめ断っておくが、心理学において「バカ」という研究対象が存在するわけではない。むしろ、「人間はどうして時折バカみたいな言動を行なってしまうのか」という疑問が研究テーマとされる。

〈スクリプト〉〔心理学における一連の手続き的知識〕に関する研究によると、「人間はまわりの状況をあまりよく考えずに行動する」傾向があるという。いつもの自分がいつもの状況で行なっている言動を、自動的に、ルーチンとして、いつでもどこでも行なってしまう。

だからこそ、こういうことが起こりうる。「こっちがめそめそ泣いてる時に、『やあ、元気?』って言ってくるバカがいるけど、あれって何なの!?」

同様に、たった今見たばかりなのに、またすぐに腕時計に目をやるバカもいる。時間を知りたい時、わたしたちは腕時計に目をやる。それは自動的な手続き、つまり〈スクリプト〉だ。この時、わたしたちは自らの行動にほとんど注意を払わない。何かを実行するのに注意力をほとんど使わずに済むメカニズム、それこそが〈スクリプト〉なのだ。そうやって、目の前のことに集中しなかったり、別のことを考えていたりするから、結局は何も見えておらず、情報も頭に入ってこないので、二度も時計を見るはめになる。まったくバカげている。

人間は「変化に弱く、思い込みたっぷり」

注意力に関する研究では、「人間は変化に気づきにくい」という結果も出ている。しかも、かなり大きな変化なのに気づかないことがあるという。だからこそ、こういうことが起こりうる。「ダイエットして10キロもやせたっていうのに、全然気づかないバカがいるけど、あれって何なの!?」

また、〈コントロール幻想〉〔自分の力が及ばないことなのに自分で制御できると思いこむこと〕に関する研究によると、こういうこともありうる。「急いでるからってエレベーターのボタンを執拗なまでに連打するバカがいるけど、あれって何なの!?」