結局のところ、「バカ」とは、心理学研究によって証明されたさまざまな〈傾向〉や〈バイアス〉が極端に誇張されている人物をいうのだ。そして、そうしたさまざまな〈傾向〉や〈バイアス〉をすべて併せ持つ人物こそが「キング・オブ・バカ」、バカの王様だ。地球史上最強の大バカ野郎と言っていいだろう。

人の欠点ばかりが目につく「ネガティビティ・バイアス」

さて、ここで冒頭の問いかけに戻ろう。あのバカげた……いや、重要な問い、「バカを科学的に研究できるか?」だが、むしろ「どうして世の中にはこんなにバカがたくさんいるのか?」と考えるべきではないだろうか。試しに、「このバカ野郎!」と路上で怒鳴ってみるとよい。通りかかったほぼ全員が、「おれのこと?」「わたしのこと?」という顔でこちらを振り返るはずだ。その理由は、これもまたやはり心理学の研究結果に見いだせる。しかも複数ある。

どうして世の中にはバカがたくさんいるのか。第一に、わたしたち人間には元々バカを探し当てるレーダーが備わっているせいだ。これを〈ネガティビティ・バイアス〉という。

わたしたちは、ポジティブなものより、ネガティブなものにより注意を向け、関心を抱き、重要視する傾向がある。そのせいで、最悪の場合、他人に対して偏見を抱いたり、先入観を抱いたり、固定観念を持ったり、差別をしたりする。そこまでひどくなくても、たとえばパートナーが部屋の掃除をしてくれても、汚れが残っているところばかり気になって、きれいになっているところには目もくれなかったりする。

つまりこの〈ネガティビティ・バイアス〉のせいで、さまざまなタイプの人間がいるこの社会において、頭のよい人ではなくバカばかりが目についてしまうのだ。さらにこの〈ネガティビティ・バイアス〉のせいで、わたしたちはネガティブな出来事に見舞われると、その裏に隠れた別の原因を探ろうとしてしまう。たとえば、家の中で探し物をしながら「なくしたのは自分じゃない。ほかの誰かだ」と思いこみ、こう言うのだ。「おれのあれを最後に使ったのは誰だ? どこに置いたんだ?」

仕事で大きなミスがあった時も、わたしたちは別の原因を探ろうとする。そしてこう思うのだ。「すべてが台なしだ。それもこれも、あの大バカ野郎が悪いんだ」