プロを見下す素人がつぎつぎ湧いてくるワケ

ふたりの研究のおかげで、わたしたちは日常のさまざまな出来事に合点がいくようになるはずだ。なぜバカな客はプロの料理人に対して、「料理とは」と長々とうんちくを傾けるのか。わたしたちがなくし物をした時、「おい、よく考えろ、最後にそれを見たのはどこだ?」と言うバカが必ずいるのはなぜか。バカはいつも、さもわかったような口をきく。

「弁護士になるのなんて簡単さ。法律を暗記すればいいんだから」
「禁煙? その気になれば誰だってできるよ」
「飛行機のパイロット? まあ、バスの運転手のようなもんだな」

そしてバカは、量子物理学の難解な講義を受けながら、何ひとつ理解できなかったにもかかわらず、講師に対して「まあ、そういう考え方もありますね」と、平然とのたまうのだ。

さらに、ダニングとクルーガーによると、謙虚な人ほど選挙の時に投票に行かない傾向が強いのだという。「だって、わたしって経済音痴だし、地政学や社会制度のことなんて何も知らないし、選挙公約だってどれがいいか決められないし、どうしたらフランスがよくなるかなんて、さっぱりわからないんだもの」

その一方で、バカは飲み屋で集まった友人たちに向かって得意げにこう言う。「今の経済危機からどうしたら抜けだせるかって? おれにはわかるぞ」

だが、多くの研究結果によると、アジアの国々では、こうした〈ダニング=クルーガー効果〉と真逆の現象が起きているという。アジア人は自らの能力を過小評価する傾向が強いらしいのだ。とくに極東の国の人たちは、欧米人のように能力をひけらかさず、自分は何でもできると自慢したりしない。

心理学的な「傾向」や「バイアス」が極端に強いのがバカ

バカとはどういうものかを定義する研究結果は、ほかにもごまんとある。だがここでは、その集大成ともいえる〈シニシズム的不信〉を最後に挙げておこう。シニシズムとは、人間の性質と行動について否定的な信念を抱くことだ。わたしたちは誰でもみなこの種の不信を抱きがちだが、バカ、あるいは大バカ野郎は、並はずれて深くこれにとらわれる。

とくに大バカ野郎は、現代社会や政治に対してシニカルになりがちだ。試しに何でもいいからバカに尋ねてみよう。自らの考えを、単語を並べただけの短文で言い表すはずだ。

「そんなの全部ダメさ」
「オービス? あんなの、脅し、カツアゲ、無意味だよ」
「心理学者? 詐欺師ばかりさ」
「ジャーナリスト? みんなごますりよ」

バカにとって、まじめな人間はみな臆病者なのだ。だが、バカは何もかもうまくいかない暗い生活を送っている。ある研究結果によると、シニカルなバカは非協力的で疑い深いため、社会でステップアップする機会を逃してしまい、平均以下の収入で細々と暮らしている者が多いという。