従妹と3人で長野にやってきたタイ人ホステスのピーチ

暗い道のわきに複数の女性たちの姿が見えた。立っている人もいれば、ヤンキー座りをかまし、タンベ(韓国語でタバコの意味)を吸っている人もいる。なかなかのガラの悪さだが、こちらの存在に気づくと笑顔で近寄ってきた。

撮影=藤中一平
奥に見えるのが、店を管理している韓国人ママたち。

タイパブを経営する韓国人ママの呼び込みだった。何軒かママたちに連れられて店を覗いてみたが、どの店にも客はいない。そのなかで唯一、私たち以外にも2組の先客がいた店へ入ってみる。

「料金は1時間3000円で飲み放題、ホステスへのドリンクは1杯1000円。何飲む? 私も1杯もらっていいですか?」(韓国人ママ)

韓国人ママとタイ人ホステスが2人ずつの計4人で営業していた。テーブルについてくれたタイ人ホステスのピーチに、片言の日本語と英語を交えながら話を聞く。

「今年の4月に、タイのシラチャから従姉妹2人と3人できた。3人で店の寮に住み、同じ店で働いている。タイでは日本より早くコロナで仕事がなくなった。まだこっち(日本)のほうがマシだと思った。給料は1日5000円、休みは週に1日。寝て過ごすか、近くのショッピングセンターで買い物したり、電車で軽井沢へ遊びに行ったりする」

シラチャはバンコクからバスで約2時間、パタヤの真上に位置する。日系企業が多く進出しており、多くの日本人駐在員が住むタイの「日本人町」ともいわれている。

日本より早い時期に歓楽街での感染が問題視されたタイ。仕事もなくなり、まだ日本のほうが稼げると見込んで、コロナ禍で入国できなくなる前のギリギリ、滑り込みの入国だったようだ。ほかのテーブルのお客のことを聞いてみると、地元の常連客とのこと。県外からきた観光客はこの店では私だけだった。

「もう日本を出たい」帰りたくても帰れないタイ人ホステスたち

「日本もコロナのせいで稼げない。本当はすぐにでも帰りたいけど、航空券代が高くてとてもじゃないけど帰れない。帰っても仕事があるとは限らない」

ピーチは韓国人ママのことを横目で気にしながら、葛藤する本心を吐露してくれた。帰るのか、残るのか、どうすればいいのかわからないのだ。続けて「ママは厳しい。仕事が終わったらどこにも寄らずまっすぐ寮へ帰れと言う」とも漏らす。この言葉の真意はのちに判明する。

タイに帰りたいけど帰れない、ホステスのピーチ(撮影=藤中一平)

タイ人の日本滞在時のビザは観光目的の15日間以内であれば不要。彼女たちは観光で入国し、次に90日の短期ビザを申請する。その期間で稼ぐだけ稼いで帰国するのが通常だが、コロナ禍で帰国が困難になっているため、さらにビザ延長をして滞在を延ばしているようだ。

ただ、このビザが就労可能なのかは、はっきりと答えてくれなかった。言葉の壁なのか、後ろめたいことがあるのだろうか。こちらとしてはこの短時間では、確かめようがなかった。

そろそろ1時間になるので、会計を願いすると韓国人ママから「遊んでいかないのか」と言われた。意味を聞くと、タイ人ホステスの“ペイバー(連れ出し)”のオファーだった。はっきりとは言わないが、これは売春を意味している。

料金はショートで2万5000円。女の子の手取りは2万円で、店には5000円が入るという。その意思がないことを伝えると、韓国人ママの表情が一転し、ピーチもため息をついた。金を落とさないとわかった客には冷たいようだ。

会計を済ませ、背中に刺さるような視線を感じながら、逃げるように店を出た。店やタイ人ホステスが本当に稼げるのはこの“ペイバー”で、今回は出会えなかったタイ好きおじさんたちの目的はこれがすべてと言っても過言ではない。