計算されつくしたキッチンの動線に感嘆

例えば、サイゼリヤではiPod Touchを注文の端末として使っていて、オーダーをとりながらスタッフが打ち込んだら、そのデータがPOSレジに届きます。会計時にはレジで伝票のバーコードを読み込んでお金を入れれば、おつりは自動で出てきます。伝票を見ながらメニューごとに料金を打ち込んで、お客様から受け取った金額をレジに打ち込んで……なんて細かい作業はショートカット。これなら誰でもすぐにできるので、「いいなあ、このシステム」とうらやましく思いました。

サイゼリヤは店では包丁を使わないのは有名な話。全て下処理済みの材料が店に届いて、キッチンではパスタをゆでたりグリルで温めたり、カットされたサラダを盛り付けるといった作業だけになっています。だから、キッチンを1人か2人で回せるし、料理が未経験でも短時間の研修でキッチンに立てるという合理的なシステムです。

もちろん、僕が経営する高価格帯のレストランではマネできません。でも、ツールの置き場所や料理をスムーズに提供する動線など計算されつくしていて、仕組みやマネジメントのレベルが群を抜いていることはわかりました。

「なんなんだ、この楽しい世界は!」

何より、僕が衝撃を受けたのは、サイゼリヤには上下関係がほぼないところです。

村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)

高校生からシニアまで、さまざまな年齢、立場の人が一緒に和気あいあいと働いているので、「なんなんだ、この楽しい世界は!」と感じました。

当たり前といえば当たり前だけど、店長さんが丁寧に仕事を教えてくれたことにも、僕は内心感動していました。僕がずっといた高級店の世界では、「仕事は盗んで覚えろ」が常識。仕事をロクに教えてもらえないし、先輩は常に上から目線で下にいばり散らしていました。

ところが、サイゼリヤでは高校生でも「こっちのお皿から洗ったほうが早いですよ」なんて教えてくれる。僕がモタモタしていても怒鳴られることはないし、手を貸してくれる。働きやすい職場とはこういうものなんだ、と僕は感動のあまり涙ぐんでしまったぐらいです(笑)。