ブラックな星付きレストラン、ホワイトなサイゼリヤ

ミシュランの星を獲るような店は、いわゆるブラック企業のようなところが多いです。朝からずっと仕込みや料理に追われて、営業時間が終わっても新作メニューを考えたり、次の日の仕込みをしたり、深夜にようやく家に帰れる。睡眠時間は2〜3時間でまた出勤、なんてこともざらです。

そして、常に「星を落としたらいけない」とプレッシャーにさらされているので、メンタルも体力も全部削られる。もはや、お客様のために料理をつくっているのか、星のためにつくっているのかわかりません。そのプレッシャーに押しつぶされてしまうシェフもいるほどです。

そんなやり方では、シェフもスタッフも幸せにはなれません。「それに耐えられるのが一流だ」みたいな風潮もあるけど、僕はレストランの経営がうまくいかなくなってから、「本当にそうなのか?」と考えるようになりました。

サイゼリヤの基本理念は「人のため 正しく 仲良く」。僕はこの社是が大好きです。サイゼリヤも残業はありますが、必ず週に1回の休みはもらえるし、店長がいばり散らしてないからスタッフの仲はいいし、ホントに社是の通りです。

週3時間かかっていた作業が週9分に短縮

それに、スタッフの負担を減らすために、徹底的に仕組みを考えています。例えば、業務用の厨房では、グリストラップという油脂や残飯、野菜くずなどが下水に流れるのを防ぐ装置を設置しなくてはなりません。この装置の掃除は大変で、僕の店では週3回3時間かかっていました。

ところが、サイゼリヤは週1回、9分でできるような掃除の仕方をしています。それどころか、掃除をしなくていいグリストラップも開発してしまったのです。

3時間も油でギトギトになった装置を掃除するのは、僕だって苦痛でしかありません。皆さんもそうでしょうが、イヤイヤやっている仕事は、さらに生産性が落ちます。ストレスもたまって、皆で掃除を押し付け合う始末です。

それが9分で済むなら、楽勝です。残りの2時間51分は休憩してもいいし、自分の技を磨くために勉強に使ってもいい。そっちのほうが、幸せじゃないですか?

そして、幸せになったら仕事が楽しくなるから、仕事のスピードも上がる。一人一人の仕事の生産性が上がったら、店の売上も上がる。そんな好循環が生まれます。

僕はサイゼリヤで、人を幸せにする仕組みをたくさん学びました。それを自分の店でも取り入れて、超速で働き方改革をしていったのです。