サイゼリヤは「レストランで働く人たちの理想郷」
その日の夜、僕は今までの自分の行動を振り返りました。今までに修業してきた店では、厳しい職人の世界と言えば聞こえはいいけど、不条理で不合理なやり方がまかり通っていました。本当は、僕はそんな世界が大嫌いでした。
だからイタリアに渡り、8年間がむしゃらに働いて誰にも文句を言われない世界を勝ち取った。でも、いつしかそんな思いは忘れてしまっていた。僕も先輩たちと同じように、スタッフに丁寧に仕事を教えないし、「黙ってオレの言うことを聞いていればいいんだ」的な考えに支配されていました。
その結果、スタッフは委縮していつまで経っても仕事を覚えられないし、僕の顔色を窺うようになっていました。ピリピリしたスタッフたちがお客様の前で喧嘩して、それが不快だったというレビューがグルメサイトに投稿されたこともありました。
僕は、それはスタッフのメンタルが弱くて、力量がないからだと思っていました。チェーンストアを指導した経営コンサルタントの渥美俊一先生は、店舗や事業がうまくいかないのは全て経営者の責任だと言っています。人が定着しない、殺伐とした生産性の低い構造をつくった僕が全部悪かったんです。
スタッフにも幸せな人生を送ってもらいたいと思っていた、かつての僕の理想郷がサイゼリヤにはありました。
生産性を上げるには、幸せであることが一番
実は、僕がサイゼリヤでバイトしようと決めたのは、店の経営が行き詰まっていて、突破口を見つけたかったというのもあるのですが、もっと大事な理由があります。
僕は、人を幸せにしたいんです。僕とかかわってくれる人を幸せにする仕組みをつくりたいのです。
こんな話をしたら、怪しげな自己啓発っぽく感じるかもしれませんが、僕は毎日幸せに生きているのか自分自身に問いかけています。「幸せ至上主義」なのかもしれません。世の中の経営者やリーダーは、社員を幸せにするような仕組みをつくらなければならないと思います。その企業は必ず生産性が上がり、売上が上がります。
仕事の生産性を上げるには、幸せであることが一番です。幸せなら、気分よく補い合いながら働いて、チームとしての全体最適を図れるので生産性が上がります。一方で、生産性が上がれば上がるほど、時間的にも精神的にもゆとりができてみんながより幸せになります。この好循環を実現させているのがサイゼリヤです。