両監督の思いを伝えていくのが使命
硬式野球クラブ石川ボーイズ/ウイングスの監督を務めるかつてのチームメイト山下靖からの誘いで、今もヘッドコーチを務める加藤。山下にとっても加藤にとっても、自分たちに野球を教えてくれたのは山下と尾藤の両監督であると思っている。あの二人の野球に対する思いを伝えていけるのは、星稜と箕島の教え子である自分たちだという自負もある。だからそれを引き継ぎ、次世代の野球人を育てていくのが、自分たちの使命だと思っている。
山下監督のノックを受けたい
加藤は、甲子園の写真、記念のボールの一つ一つを取り出して掌に乗せ、見つめながら、今でもたまに思うことがあるんです、と呟いた。
「野球の神様が本当におるのなら、何であの大事な場面で転倒したのが俺なのだろうかと思うことがあります。でもね、神様が俺を選んだのだろうとも思うんです。あのおかげで今も野球に携わって指導することができています。悪いことばかりではなかったですからね。あの転倒がなければ野球は続けていなかった」
「なぜあの場面で俺が」とは、18歳から今まで彼が自分に問いかけ続けたことだった。それに対する自分なりの答えを加藤はようやく出しつつある。
そして死ぬまでもう一度、山下監督のノックを受けたいと切に願う。もう名将山下も70代半ばで、以前のような体力はないが、ノックを通していろんな会話ができそうな気がする。山下はあの転倒から今日までの加藤の人生にどんな言葉をかけてくれるだろうか。