「会社に行って仕事をする」ことの意味や価値

時は移ろい、バブル崩壊や「平成」の「失われた30年」を経て、「令和」に変わった。かつてのような終身雇用や年功序列は崩れて、「モーレツ社員」も「企業戦士」も姿を消した。しかし先行きが見えずに安定志向が強まる中で、日本のサラリーマンの会社という共同体への帰属意識は、それほど大きく変わっていないように思える。

そんな折、新型コロナウイルスのパンデミックが降りかかって、企業社会も変革を余儀なくされた。感染拡大防止のためにテレワークや時差通勤の推奨・導入に踏み切る企業が続出して、政府の音頭では一向に進まなかった働き方改革が一気に進行したのだ。

とある大脳生理学者の研究によれば、日本のサラリーマンにとって一番α波(リラックスしたときに多く出る脳波)が出るのは、会社で自分の席に着いているときだという。そんな日本のサラリーマンが、今回のコロナ禍で在宅勤務をやってみると、さほど生産性は変わらなかったりする。

ハイクラスを対象にした大手転職サイトのアンケートによれば、新型コロナの感染拡大をきっかけに約6割がキャリア観に変化があり、そのうちの9割以上が「会社に依存しないキャリア形成が必要」と回答したという。

あくまで自分のキャリア形成に関心が高い人たちのアンケート結果ではあるものの、テレワークをやってみて、日々の通勤や対面の会議、打ち合わせ等、「会社に行って仕事をする」ことの意味や価値を見つめ直した人は少なくないのではないか。

たとえば、Zoom(Web会議用アプリ)などを使ったリモート会議と対面の会議では勝手が違う。日本企業の普通の会議なら、まず配った資料の説明に時間がかかって、質疑応答の後に「各々、検討しておくように」で終わる。リモート会議の場合、事前に配った資料を参加者が読み込んでいるから、長々とした説明は要らない。すぐに質疑応答に入れる。

質疑応答にしても、普通の対面会議では発言せずにいても案外目立たない。しかしリモート会議の場合、司会役の上司から全員の顔がよく見えるから居眠りもできないし、端から一人ずつ意見を求められることもある。リモート会議では意見を言わないほうが目立つのだ。

リモート会議のようなことを続けていると、業務のムダや人材のムダが否応なくあぶり出されてくる。大した意見も言えずに自分の存在価値に疑問を持ったり、疎外感を覚える人もいることだろう。