なぜ日本ではジョブ型雇用が普及しないのか

さて、日本のサラリーマンの多くは、「会社に依存したキャリア形成」をα波が出まくるくらい当たり前のようにやってきたが、そのうちの5人に1人でも「会社に依存しないキャリア形成」を模索するようになれば、日本の企業社会は変わると私は思っている。さらにそのうちの5人に1人、あるいは10人に1人でも成功するようになれば、日本は大きく変わる。

「会社に依存しないキャリア形成」とは、政府の言葉で言い換えれば「ジョブ型雇用」ということになるだろう。

「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」を示して、職務の内容や必要な能力を明確にしたうえで最適な人材に報酬を提示して、提示された側もそれでよければ契約し採用する。これがジョブ型雇用である。欧米では一般的だが、日本人にとっては一番苦手な雇用形態だ。

たとえばアメリカでは、「こういう部門のこういうジョブを求めています」と企業が募集をかける。LinkedIn(リンクトイン)などのビジネス人材に特化したSNSを活用するケースも近頃は多い。

選考して候補者が絞られてくると、リファレンス・チェック(身元照会、経歴照会)が行われる。応募者はエントリーシートにこれまでのキャリアや自己アピールとともに、自分のことをよく知る人物(過去の仕事の上司や同業者など)の名前を最低3人書き出さなければならない。採用担当者はその3人に連絡を取って、「本人はこう言っているが、あなたと仕事をしているときはどうだった?」と逐一確認するのだ。

これは給与条件の設定にも関わってくる。たとえば、1社目の年俸が6万ドル、2社目が7万ドル、3社目が15万ドルだったとしよう。1社目、2社目の上司の評判は上々なのに、3社目の上司の評価は低かったりする。この場合、当人の能力が頭打ちになったと判断できるから、15万ドルではなく、11万ドルくらいの仕事をジョブ・ディスクリプションに書き出してオファーするわけだ。

ジョブ型のマーケットでは、このようなプロセスを経て人材に値札をつける。しかし、私は今までジョブ・ディスクリプションを書き出せる日本企業のマネジャーを見たことがない。高収入の専門職を労働時間の規制対象から外す「高度プロフェッショナル制度」を導入した企業がこの1年でわずか10社、適用者が414人にとどまっているのも、ジョブ型と日本の企業社会の相性の悪さを物語っている。