大事なのは、その貨幣が税の支払いに使えるか
モズラーの逸話に、MMTを理解するのに重要な3つの要素が含まれている。
この考え方をもう少し深掘りしていくと、MMTの主張の1つに近づく。「月末までに30枚の名刺を納めよ」という指示は、国民が国家に税金を納めることと同じだからだ。もともと名刺に価値はないが、父がそれを受け取ることで、家から追い出すという罰を与えない。だから子どもたちは名刺を集める。
これは言い換えると、貨幣(不換紙幣)には裏付けとなる価値はないが、国が納税する際の支払い手段として受け取る。だから国民は裏付けとなる価値のない貨幣を集めようとする。読者は同じことだと感じるだろうか。
つまり、MMTの考え方では、その貨幣が納税の際の支払い手段として使えるかどうかが、その貨幣が流通するかどうかを決める際に重要な要素になる。
税金の存在が貨幣を獲得・保有するインセンティブを国民に与える。この考え方をタックス・ドリブン・マネタリー・ビュー(Tax-Driven Monetary View)といい、ランダル・レイは「租税が貨幣を動かす」(Taxes drive money)と表現している。
これがMMTを理解するための、2つ目のキーワードだ。
税金は財源ではなく、貨幣価値を保証するもの
タックス・ドリブン・マネタリー・ビューに対しては「徴税をする国と納税をする国民の間でしか貨幣が流通しない」からおかしいという指摘があるが、それは間違っている。全国民が消費の際に課税される消費税や、日本に住む多くの国民が支払うことになる住民税など、いろいろな税は存在する。だから、その国において納税の際に決済手段となる貨幣を、普段の経済生活でやり取りをするインセンティブは発生している。
仮にいっさい課税されず、納税の義務もない国民がいたとしても、周りの国民が納税する義務を負っているなら、納税に使用できる貨幣を持っていた方が得である。その貨幣と引き換えに、周りの国民が生産するモノやサービスを受け取れるし、労働力として使うこともできるからだ。つまり、MMTの主張としては、税金は財源ではなく、貨幣の価値を保証するものなのである。
「財政健全化が優先」は誤った考え方だ
本稿ではMMTにおける主張を見てきたが、著名な経済学者から中央銀行や政府関係者に至るまで、MMTは多くの否定的な意見を集めている。多く見られる否定的な意見の1つが、「財政赤字を続けるのは不可能であり、財政黒字を目指す、つまり財政健全化が重要だ」というものだ。しかし、これまで見てきたMMTの考えからすれば、この考え方は誤っている。