行きすぎたインフレには歳出削減で対応する

たとえば、「機能的財政論」に基づけば、財政支出をすることで総需要は増加するが、総需要が経済の生産キャパシティを超えてしまえば、当然インフレは生じる。仮にインフレが行きすぎた場合には増税や歳出削減などで対応すればいいというのがMMTの考え方である。

つまり、MMTの枠組みであってもハイパーインフレが起こる可能性はあるのだ。MMTを否定するのであれば、「自国通貨建ての借金ができる国が財政破綻することはない」という点と、「インフレを抑制するためには増税や歳出削減をすればいい」というどちらか、または両方を否定しなければいけない。

後者を否定する論法として、「増税や歳出削減には政治的なコストがかかるため、インフレの兆しが見えてから動いては間に合わない」という意見もある。だがそれもまたMMTへの理解が足りていないと思われる。

MMTでは、所得税(累進課税)は好景気になると負担が増え、民間の消費や投資を抑制する。そのため、増税や歳出削減をしなくとも財政赤字が削減され、インフレを抑制する効果があることも主張している。

「10年後に財政破綻する」と言われてきたが…

また、日本ではこの20年間で2回消費増税をし、公共投資を大幅に削減したにもかかわらず、世界的に見ても高い政府の債務残高がある。しかし、低インフレを継続し、更にこれから再度デフレに突入する可能性すら見えている。残念ながらこの現状は、またしてもMMTの主張を実証してしまうことになる。

「日本の財政は10年後には破綻する」という話は過去20年以上続けられているが、いまだにその兆しは見られない。財政破綻論者は時として「オオカミ少年」と揶揄やゆされており、具体的にGDPに対する政府の債務残高が何%になれば国債価格は暴落するのか、という話になっても、その際に示される数字は常に引き上げられ続けてきた事実は前述した通りである。

過去の歴史をさかのぼっても、ハイパーインフレが起きた理由の多くは、戦争で供給力が破壊された場合や、経済制裁によって国内の物資が不足した場合などであり、日本のような先進国において財政赤字だけが理由でハイパーインフレが起きたことは一度もない。