現代貨幣理論(MMT:Modern Monetary Theory)が注目を集めている。MMTは1990年代にビル・ミッチェル(豪ニューカッスル大学)らによって始まり、主要な提唱者であるステファニー・ケルトン教授(ニューヨーク州立大)が2016年大統領選挙の予備選で、旋風を起こした民主党バーニー・サンダース議員の顧問を務めていたことなどから注目が集まった。
MMT支持者には、日本をその好例と挙げる人も多く、消費税率の引き上げが迫るにつれ、日本でも急速に関心が高まっている。
その主張の核心は「通貨を発行する権限があって自国通貨建て国債を発行する政府は、財政政策において財政赤字や債務残高などを考慮する(財政再建に努める)必要はない」というものだ。むしろ、財政の役割として完全雇用の実現・維持や格差是正など経済政策を重視すべきという。
実際、米国におけるMMT支持者は、国債発行で確保した財源を用いて、政府が基金を作り、失業者を雇用してその業務を担わせる「雇用保障プログラム」(Job Guarantee Program)を提唱する。とはいえ、主流派の経済学者からはインフレを招くといった批判が少なくない。本稿ではこのMMTの主張とその問題点について概観していく。
平時にも積極的財政政策を主張するMMT
MMTの主張を端的に言えば、政府は財政赤字を気にすることなく、公共事業や福祉プログラムを含めて積極的な財政出動を行うべきということになる。デフレで経済が低迷するとき、マクロ(経済全体)の需要を喚起し、雇用と所得を拡大するよう財政を拡大すべきという主張は、古典的なケインズ経済学と同様だ。
MMTに批判的な主流派の経済学者であっても「例外的な環境における需要管理手段」として財政拡大は容認している。税収が伸びない中での歳出増は財政赤字を増やすことになる。この赤字は国債の起債によって埋め合わせなければならない。民間投資が活発な平時の経済状況であれば、国債の増発は(貸し手に対して借り手が増す結果)資金需要を逼迫(ひっぱく)させて金利の高騰を招くことになる。ここで金利とは資金のやり取りの「価格」にあたる。高金利は借り入れコストを高め民間投資を阻害してしまう。
一方、デフレ下では民間は投資を控え気味だし、家計は将来不安もあり消費を抑えて所得を貯蓄に回している。つまり、民間全体では資金が余っている(貸し手に対して借り手が少ない)状態にある。そうであれば、国債を増発しても金利上昇にはならず、むしろ政府の支出が新たな雇用と所得を生み出し、消費・投資を含む民間需要を回復させるという「好循環」につながる。不況期において財政拡大は有効な処方箋といえる。
しかし、MMTがいう積極的財政出動は不況期に限らない。平時においても必要というのが彼らの主張だ。なぜか? 財政出動の「出口」に対する認識が主流派とMMTとの間では決定的に異なっている。