会場がどよめく悪手、投了するまで背中を丸めて縮こまっていた

こども大会の決勝は、多くの観客の前で行われる。平常心を失ったのか、相手の「馬」の筋に「角」を打ち込み、タダ取りされてしまった。会場で対局を見守った母親が「聡太が指した瞬間、会場全体がどよめきました。本人もすぐ気づき、最後(投了する)まで背中を丸めて縮こまっていました」と本誌に語ったほどの致命的な悪手だ。

テーブルマークこども大会の表彰式でうなだれる小2の藤井七段。翌年は見事優勝した。

「この大会は決勝戦まで残ると羽織・袴を着ることができ、プロの棋士が対局するのと同じ壇上に上がることもできました。そんな中、間違った手を指してしまった悔しさと、大勢の人にその場面を見られてしまったという恥ずかしさがありました」(藤井)

当時の藤井に、準優勝できて満足という気持ちはなかった。

谷川浩司九段の指導対局で「引き分けにしようか」と言われ、号泣

インタビュー時。子供時代を振り返るときには表情が特に柔らかくなった。(撮影=竹内さくら)

小2の頃に藤井が、号泣したエピソードがもう一つある。憧れの棋士である谷川浩司九段に指導対局してもらった時のことだ。藤井少年が劣勢となったことを気遣った谷川九段が「引き分けにしようか」と提案した瞬間、将棋盤を抱えて泣き始めた。結局、母親が抱きかかえてその場から引き離すことになったそうだ。

藤井は泣き虫だった小学校低学年の頃をこう振り返った。

「小さい頃は、負けるとすぐに泣いていました。悔しい気持ちを抑えられなかったんです。でも、その後、徐々に悔しさをコントロールできるようになり、奨励会に入ってから(10歳以降)はあまり泣かなくなりました。負けたことに正面から向き合うのは大変なこと。けれど、向き合って悔しい気持ちを次の対局へのモチベーションに切り替えていくことが大事だと思っています」

たった6年後、藤井が日本中を驚かせる天才棋士となれたのは、負けに正面から向き合ってきたからだろう。