テロ対策は防衛側のコスパが極めて悪い
【佐藤】しかも、攻守の立場が非常に非対称になるのです。テロリストは、一瞬の隙を見て、一回事を成せば、それでいい。一方、守る側は、毎回そのアタックを阻まないと、負けになってしまう。100回のうち99回ブロックしても、一度破られれば失敗です。だから、防衛側のコストパフォーマンスがとても悪い。特に自爆型のテロの防止は、非常に難しい。
【手嶋】公安調査庁も、東京オリンピック・パラリンピックが標的とされる可能性を十分に踏まえたうえで、「『インテリジェンスの力』で東京大会の安全開催に貢献していく」と、公開情報である『内外情勢の回顧と展望』でつぎのように述べています。
【手嶋】東京への招致が成功したおよそ10日後には、「特別本部」を立ち上げ、インテリジェンス活動を開始しています。
「サイバーテロ」が幅を利かせてきた
【佐藤】オリンピックに限らず、テロは爆弾や生物兵器だけが「武器」になるわけではありません。最近ますます幅を利かせているのが、サイバーテロです。
【手嶋】オリンピックを狙った攻撃もありました。
【佐藤】『回顧と展望』は、次のように分析しています。
ロンドン大会では、大会の運営に支障はなかったものの、電力供給システムを狙ったサイバー攻撃等が実行された。ソチ冬季オリンピック競技大会(平成26年〈2014年〉2月)では、大会に関連するウェブサイトがDDoS攻撃等を受けて一時的に利用できなくなるなどの被害が生じたほか、リオデジャネイロオリンピック競技大会(平成28年〈2016年〉8月)では、オリンピック関係機関からの情報窃取等が発生した。さらに、直近の平昌冬季オリンピック競技大会(平成30年〈2018年〉2月、韓国)では、開会式当日、サイバー攻撃に起因するシステムの不具合によってチケットが印刷できなくなるなど、大会の円滑な運営に不可欠なシステムが被害に遭った。
また、サイバー攻撃による大規模停電(平成27年〈2015年〉、ウクライナ)等、重要インフラへのサイバー攻撃の脅威が現実のものとなっているところ、こうした攻撃が東京大会の妨害に用いられた場合、その影響は同大会にとどまらず、国民生活に深刻な影響が及びかねないことから、特に注意を要する。
【佐藤】公安調査庁がオリンピックへのサイバー攻撃の脅威まで言及している点も注目していいのではないでしょうか。
【手嶋】新型コロナウイルスの動向もあって、2021年にどのような環境で東京大会が開催されるのかは不透明ですが、公安調査庁をはじめとする日本のインテリジェンス機関の実力が問われることになると思います。