テロ対策は防衛側のコスパが極めて悪い

手嶋龍一、佐藤優『公安調査庁 情報コミュニティーの新たな地殻変動』(中央公論新社)

【佐藤】しかも、攻守の立場が非常に非対称になるのです。テロリストは、一瞬の隙を見て、一回事を成せば、それでいい。一方、守る側は、毎回そのアタックを阻まないと、負けになってしまう。100回のうち99回ブロックしても、一度破られれば失敗です。だから、防衛側のコストパフォーマンスがとても悪い。特に自爆型のテロの防止は、非常に難しい。

【手嶋】公安調査庁も、東京オリンピック・パラリンピックが標的とされる可能性を十分に踏まえたうえで、「『インテリジェンスの力』で東京大会の安全開催に貢献していく」と、公開情報である『内外情勢の回顧と展望』でつぎのように述べています。

 
東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京大会」という。)を安全・円滑に開催することは、「世界一安全・安心な国」を掲げる我が国の責務であり、その一翼を担うべく、公安調査庁は、平成25年(2013年)9月18日、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会関連特別調査本部」を設置した。現在、同調査本部の下で全庁を挙げての情報収集・分析態勢の強化を図りつつ、当庁の最大の強みであるヒューミント(人的情報収集)を通じて、テロの未然防止や各種不法事案等の早期把握に資する情報を始め、東京大会の安全・円滑な開催に向けた各種関連情報を収集・分析し、関係機関等に随時提供している。

【手嶋】東京への招致が成功したおよそ10日後には、「特別本部」を立ち上げ、インテリジェンス活動を開始しています。

「サイバーテロ」が幅を利かせてきた

【佐藤】オリンピックに限らず、テロは爆弾や生物兵器だけが「武器」になるわけではありません。最近ますます幅を利かせているのが、サイバーテロです。

【手嶋】オリンピックを狙った攻撃もありました。

【佐藤】『回顧と展望』は、次のように分析しています。

近年、オリンピック・パラリンピック競技大会は、サイバー攻撃の脅威にもさらされている。特に、ロンドンオリンピック競技大会(平成24年〈2012年〉7~8月、英国)以降、その脅威は顕著となっている。
ロンドン大会では、大会の運営に支障はなかったものの、電力供給システムを狙ったサイバー攻撃等が実行された。ソチ冬季オリンピック競技大会(平成26年〈2014年〉2月)では、大会に関連するウェブサイトがDDoS攻撃等を受けて一時的に利用できなくなるなどの被害が生じたほか、リオデジャネイロオリンピック競技大会(平成28年〈2016年〉8月)では、オリンピック関係機関からの情報窃取等が発生した。さらに、直近の平昌冬季オリンピック競技大会(平成30年〈2018年〉2月、韓国)では、開会式当日、サイバー攻撃に起因するシステムの不具合によってチケットが印刷できなくなるなど、大会の円滑な運営に不可欠なシステムが被害に遭った。
また、サイバー攻撃による大規模停電(平成27年〈2015年〉、ウクライナ)等、重要インフラへのサイバー攻撃の脅威が現実のものとなっているところ、こうした攻撃が東京大会の妨害に用いられた場合、その影響は同大会にとどまらず、国民生活に深刻な影響が及びかねないことから、特に注意を要する。

【佐藤】公安調査庁がオリンピックへのサイバー攻撃の脅威まで言及している点も注目していいのではないでしょうか。

【手嶋】新型コロナウイルスの動向もあって、2021年にどのような環境で東京大会が開催されるのかは不透明ですが、公安調査庁をはじめとする日本のインテリジェンス機関の実力が問われることになると思います。

関連記事
「コロナの起源」がずっと隠されているインテリジェンス上の理由
「韓国が大嫌いな日本人」を、世界はどのように見ているのか
パチンコ・ホストを市中引き回し…女帝・小池百合子が夜の街の治安を最悪にさせた
なぜ北朝鮮は「横田めぐみさんは死んだ」とウソをつき続けるのか
ローマ教皇が「ゾンビの国・日本」に送った言葉