新型コロナウイルスは「武漢の研究所が起源だ」という説がある。真偽のほどを確かめる方法はあるのか。鍵を握るのは各国の情報機関だという。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏と作家の佐藤優氏の対談をお届けする――。

※本稿は、手嶋龍一・佐藤優『公安調査庁 情報コミュニティーの新たな地殻変動』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

COVID-19書き込み新聞
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いかに「機微に触れるコロナ情報」を手に入れるか

【佐藤】いま、富める国にも貧困に苦しむ国にも、富裕層にも援助の手を必要とする人々にも、等しく、そして、容赦なく、襲いかかっている災厄が、新型コロナウイルス感染症です。こうした国家の威信がかかった問題では、軍事機密と同様に、いやそれ以上に国家指導者は真相を徹底して秘匿しようとします。そうした状況下にある時こそ、インテリジェンス機関がその存在意義を問われます。ただ、真相に挑もうにも、高い壁が幾重にも張り巡らされている。日本やアメリカは、北京に大使館を置き、アメリカは武漢にも総領事館を開設していますが、だからといって、機微に触れるコロナ情報が簡単に入手できるわけじゃない。

私は外交官でしたのではっきりと言えるのですが、外交の分野では相手国は友好的な情報ならさまざまな形で提供してくれます。しかし、その国にとって知られたくない情報は基本的に提供しない。相手国が嫌がる、出したがらない情報は、どうやって入手するのか。この分野は、外交官の仕事というより、インテリジェンス・オフィサーの仕事なのです。

「情報の力で国民を守る」機関が必要だ

【手嶋】佐藤さんのように、政権の奥深くに食い込み、時に身の危険を冒して、相手が出したがらないインテリジェンスを入手してくる。そんな外交官は稀有な存在です。通常、日本の外交官は、そんなスパイのような危険な任務は、自分たちの仕事じゃないと思っているはずです。ですから、外交ルートを介して武漢起源説に関する正確な情報を入手するのはほとんど望めません。

【佐藤】戦後の日本は、海外に情報要員を配して、情報源を涵養して、極秘のヒューミントを入手するという情報機関を持ちませんでした。今回のように、中国側は徹底して情報を秘匿する。だとすれば、その厚い壁を幾重も突破して相手国の出したがらない情報に肉薄し、入手する機関がやはり必要になってきます。本章の冒頭に述べたように「情報の力で国民を守る」ための機関が必要になるのです。いますぐ対外情報機関を創設することなど望めませんし、先ほども議論したように、情報要員は一日にして成りません。そうだとすると、現実的には、公安調査庁にその責務を担ってもらうことが最も現実的だと思います。