※本稿は、手嶋龍一・佐藤優『公安調査庁 情報コミュニティーの新たな地殻変動』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
オリンピックの「延期」は今回が初めてだ
【手嶋】新型コロナウイルスが猛威を振るい、東京オリンピック・パラリンピックは一年間延期されることになりました。東京五輪は第二次世界大戦が欧州で始まった翌1940年に予定されていましたが、これも中止になったことがあります。
【佐藤】近代オリンピックが中止になったことは、夏冬合わせて過去に5回あるのですが、全部戦争絡みです。ちなみに、延期は今回が初めてです。
【手嶋】世界の耳目を集めるオリンピックは、それゆえに、じつにさまざまな事件、とりわけ凶悪なテロ事件の舞台となっています。次の東京大会も、国際テロのターゲットにならない保証はありません。
【佐藤】オリンピックがテロなどの標的にされやすいのは、いま指摘があったように、世界中の注目を惹きつけ、より強烈なインパクトを国際社会に与えることができるからです。イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリが、「テロの効果」について『21Lessons』で、次のように喝破しています。
つまり、ある種の「プリズム」によって、恐怖を実際の被害の何十倍、何百倍に拡大できるのが、テロという戦術なんですね。そして、その裏には、砂糖と違って必ず何らかの政治目的があるわけです。
一番怖いのは「バイオテロリズム」
【手嶋】オリンピックという華やかな舞台でテロを演じれば、そのプリズム効果を何倍にも拡大することができる。
【佐藤】そう思います。2020年の東京オリンピック・パラリンピックは延期されましたが、コロナ禍によって国際社会が混乱するなかで、大がかりなテロを企図すれば、さらにインパクトは大きくなる。その意味で、テロの可能性は高まったと心得るべきでしょう。現代のテロルの最も恐ろしい形態は、バイオテロリズムです。
【手嶋】未知の細菌・ウイルスは、尊い人の命を奪うだけでなく、人間社会の経済システムをハンマーで粉々に打ち砕いてしまう。われわれは、今回のコロナ禍の前から、そう警告してきたのですが、いまやこれに異を唱えるひとはいないでしょう。