無抵抗かつおびえながらの清掃業務を強いられる
「入り口に監視カメラはあるけど俺たちは何もできないからね。パートの年寄りが正義感出してひどい目に遭うのも嫌だし、見て見ぬ振りさ。警備員には伝えるけど、警備員も年寄りだからやる気はないね。障害者の人には悪いけど、文句言われてもすいませんってあやまるしかないね」
一般人が多目的トイレを使うことは何も問題ないが、目的外利用は論外だ。詳しくは書けないが大山さんの施設は場所柄どうしても客筋は悪くなる。それでも無抵抗かつおびえながらの清掃業務を強いられる大山さんたちがあやまり通しというのは理不尽極まりない。
「だからさっきも言ったけど多目的トイレはやめちゃおうって話が出てるの、必要な人には悪いけどね」
私はこれが一番怖い。これまでは施設で処理していた小さな事案の数々が、例の芸人の事件のせいで注目を浴びてしまった。施設側からすれば何かがあったら困る。事なかれで多目的トイレを閉鎖する施設も出てくるかもしれないし、現に一時的とはいえ使用禁止となった施設もあると聞く。
多目的トイレは車いす、オスメイト、介助者が必要な障害者はもちろん乳幼児や高齢者などには欠かせない施設だ。2000年の旧ハートビル法から2006年のバリアフリー新法に移行してトータル20年、まさか21世紀の日本でここまでモラルが乱れることになるとは。本当に必要な人が安心して使えるように、また大山さんのようなエッセンシャルワーカーも安心して働けるように、新たな法整備で対応するしかないだろう。そのきっかけがあの芸人のトンデモ事件とは、なんとも皮肉な話だが。