市中のPCR陽性者数は6%なのに、抗体検査陽性は0.1%

さて、ここで「新型コロナウイルスに選択的な抗体検査(ここでは単に抗体検査と記す)の陽性率のわな」について考えてみたいと思います。

4月の時点で市中の6%ぐらいの人がPCR陽性だったという報告が複数あったことを憶えていらっしゃる方も多いでしょう。てくてく歩いて別件で入院しようとした元気な人の6%が陽性だったのです。その後も流行していたので、市中のPCR陽性者はさらに増加していたはずです(※7)。それなのに東京では、市民のわずか0.1%が抗体検査陽性でした。

「なぜ、抗体検査陽性の割合が、PCR陽性だったはずの6%をはるかに下まわってしまうのか? 検査が間違っているのか?」と疑問に思われるでしょう。

私は、両方の検査の結果はどちらも正しいだけでなく矛盾しないと思っています。そして、そこに真実が隠されているのではないかと考えています。

抗体検査は厳密に設計されている

現在用いられている抗体検査は、非常に厳密に設計されました。季節性コロナウイルスはもちろん、SARSやMERSのような他のコロナウイルスに反応しないように設計された試薬を用いています(※8)。逆にその厳しい選択性が落とし穴となります。

厳密性を重視した抗体検査で陽性になった人は、新型コロナウイルスだけが持っているものに選択的に反応する抗体を持っていることを示しています。一方で、新型コロナウイルスは従来のコロナウイルスと似た部分がたくさんあります。さらに、人体は似たものを拡大して抗体を作る力も持っています。従来のコロナウイルスの抗体で新型コロナウイルスを撃退できた人は、新型コロナウイルス特有の抗体を作らなくて済んだはずです。

人間の免疫は、体を守れればそれでいいと判断します。とりあえず今あるものでウイルスが体内からいなくなるのであれば、新たに抗体を作る必要はありません。そういった場合、新型コロナウイルスだけに選択的な抗体を持っていないので、罹患りかんしても抗体検査は陰性になります。

つまり、たくさんの方が感染したとしても厳密性を重視した抗体検査では陰性に出てしまうわけです。それが、一つ目の「抗体検査の罠」です。