SARSが流行した国に共通すること

さて、日本の全体像を確認した私たちは次にベトナムを見てみることにしましょう。

ベトナムの感染者数の推移(画像=Worldmeter)
ベトナムの感染者数の推移(画像=Worldmeter)

日本よりさらに少なくピークでも数十人、総計発症者300人で死亡者はゼロです。ベトナムは中国と1400kmの距離で接していて、お互いの人々の往来も盛んです(※2)。驚くことに中国と国境を接するベトナムの方が、日本よりずっと少ない被害であることがわかります。

同様にシンガポールでは総計4万人の発症者、死亡者は26人と死亡者がとても少ない優等生。香港は1000人で死亡者4人、マレーシアでは8000人で死亡者100人です。発症者がいても、死亡者が極端に少ないことがわかると思います。日本では2万人が発症しましたが、死亡者は1000人以下で収束しました。

私が、ベトナム、香港、シンガポールなど中国の周辺国をとりあげた一つだけの重要な理由があります。SARS:重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome)が2003年に流行した国々ということです。

中国国内でも、新型コロナウイルスは武漢が震源地でしたが、それ以外の地域ではあまり流行しませんでした。SARSも同様で、震源地の広東省以外はあまり流行しませんでした(※3)。近隣でははやらず少し離れた省で流行しました。震源地から距離のあるところに流行する特徴は、新型コロナウイルスによく似ています。

さまざまなコロナウイルスが流行していた可能性

また、SARSは新型コロナウイルス同様、前年の11月ごろに発生し世界で2月から4月に流行し収束していきました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こすウイルスは「SARS-CoV-2」とよばれます。新型コロナウイルスの抗体検査の名前も「Anti SARS-CoV-2検査」と名付けられています。SARSとCOVID-19は良く似た振る舞いであることがわかります。

台湾も新型コロナウイルス感染症制御に成功した国ですが、同時にSARSが流行した国の一つでもあります。そして、台湾でSARS最後の例が確認されたことは有名です(※4)

北アメリカではSARSは香港からカナダのトロントへ飛び火してごく狭い範囲の感染で収束したので、ほとんどのカナダ人やアメリカ人には感染は拡大しませんでした。人口4000万人のカナダでは、新型コロナウイルスによって10万人が感染して8000人の死亡者を出しています。

それでは、日本でのSARS流行はどうだったかというと実は判然としません。少数発症したかもしれないけれど、確認例もなく流行は終了したことになっています。当時、SARSは新規のウイルスで十分に検査できませんでした。17年も前の2003年当時は、技術が追いついていなくて大量の検体を迅速に正確に検査できませんでした。また、遺伝子検査も現在のPCRのように発達しておらず国立感染症研究所などから苦労についての報告書が作成されています(※5、※6)。人類の技術が追いついていなかったため、全世界での8000例は、たぶん一部にすぎません。日本でも、気付かれない軽症SARSが流行していた可能性は否定できません。

私は、17年前にSARSが流行したから新型コロナウイルスがあまりはやらないと言いたいわけではありません。SARSはコロナウイルスの変異体の代表的な一つにすぎません。私は、変異を繰り返したさまざまなコロナウイルスがSARSのように繰り返し中国の辺縁国に流行していた可能性が重要だと考えています。