抗体が低めの人は「陰性扱い」かもしれない

「何を絵空事を」あるいは「世迷い言を」と思う方が多いと思います。

実はそれを支持する面白い論文が発表されました。なんと、きちんとPCRで確認されて新型コロナウイルスにかかっても重症の人の半数しか、選択的抗体が上昇しなかったことが報告されました(※9)。Nature Medicineの論文のデータを見ても、抗体価が低い人も多く個人差がとても大きいものでした(※10)。抗体検査は臨床研究と異なり実測値ではなく、厳密性を担保するために一定の値以下は陰性と判断しますので(カットオフ値と呼びます)、低めの人は検査上陰性扱いになってしまっているかもしれません。軽症で済むため抗体が低めになりそうな日本人には、二つ目の「抗体検査の罠」となります。

また、新型コロナウイルスは免疫をすり抜けてしまうウイルスではないか? というのも間違いです。どちらの論文でもデータを見ると、免疫は発動していて選択的抗体の上昇は個人差が大きく軽症者ではあまり上昇していません。

また、デレク・ロウ博士が「コロナウイルスに対する人間の免疫反応に関する朗報」として抗体だけでない、細胞性免疫についてCellに掲載された論文について述べています。抗体だけでなく、人間の免疫力の総合力で新型コロナウイルスに対応できる可能性についての意見です(※11)

急性胃腸炎として免疫獲得した人も多いだろう

日本では、季節性コロナウイルスが冬の感冒の主たるウイルスの一つです。私たちを含め中国周辺の国々の人々は、SARSを含めた人知れず変異を繰り返している季節性コロナウイルスに繰り返し感染してきました。接触感染のコロナウイルスは、主症状の一つが下痢です。気管支炎や肺炎ではなく急性胃腸炎として免疫獲得された方も多いことでしょう。

以前のウイルスによる免疫が新型コロナウイルスにも応用が効くものだとすると、「選択的な抗体検査の陽性率が低いから新型コロナウイルスが再度流行しやすい。第2波に備えよ」という考えは短絡的であることがわかります。

日本に2019年年末から翌年年始にかけて、3密を避けるどころか何の備えもすることなく知らず知らずのうちに新型コロナウイルスが持ち込まれていました。けれども、肺炎の大流行は起きませんでした。もちろん、医療崩壊なんて起きずに気づかずに過ぎてしまいました(前回の記事)。3月からの持ち込みも、厳しい規制をすることなく徹底されない自粛のみで小規模に収束しました。

今後、日本人におけるPCR陽性患者さんの抗体検査の陽性度合いや陽性率の検定などが待たれます。きっと100%なんかではなく、発表された論文の通りに大幅に下回るのではないか、抗体価が低い人が多いのではないかと私は予想しています。PCR陽性でありながら抗体検査では基準値以下で陰性と判定された人々は、過去の感染のおかげによる免疫の総合力で新型コロナウイルスを撃退した人々です。そして、その人々は新型コロナウイルスを自力で治した多くの日本人を代表する人々でもあります。