“最年長”だからこそできる接客の流儀とは

気をつけているのは、押しつけがましくならないようにすることだ。ボランティアをしてきた経験から、人は自分でできることを手伝われることでプライドが傷つくことも少なくないことを学んだ。だからお客さんの様子をよく見て、必要そうな人に「お手伝いさせていただいてよろしいでしょうか」とさりげなく声をかけてから動くようにしている。

(撮影=門間新弥)

山田さんは「一期一会」の精神で、心を込めて接客するように心がけているのだという。さらに相反するようだが、一度出会った人とは、長い時間をかけてつき合いたいと思っている。常連の客との会話も仕事の楽しみだ。

「人生でめぐりあえることのできる人はどれだけなのでしょう。縁があって出会うことができた人との関係は大事にしたいと思っています」

孫ほどの年齢のスタッフからは育児相談や恋愛相談を受ける。仕事以外でも、その姿勢は変わらない。50年前の教え子が今もときどき家に遊びにやって来る。ひとり暮らしの高齢者の知人には、毎月25日に必ず電話をかけている。

「あなたはひとりじゃない。あなたを気にしている人がこの世界にいるということを伝えたい」

それでも接客業であれば、大変なことや嫌なことなどもあるのではないか。そう尋ねると、山田さんは「認知症の人に出会ってから、ちょっとしたことでイライラしなくなりました」と笑顔を見せる。

毎日が新しい日だと思って暮らすこと

「認知症の人を見ていると、日々が新たな一日なんだと思います。玉ねぎは皮をむくと白いきれいな部分が出てくるように、毎日まっさらな1日が現れるんです」

山田さんも毎日が新しい日だと思って暮らすようになった。だからこそ、スターバックスでも自分が最年長だという意識はない。

「姉は78歳の今も現役で薬剤師をしています。私もスターバックスからもう来ないでいいよと言われるまで働きたいと思っています」

撮影=門間新弥

仕事には体力が必要だとジョギングを欠かさず、ハーフマラソンにも参加した。スクワットは毎日30分行っている。店舗から自宅までは、50分間かけて歩いて帰ることもある。

「これまでも子どもが進学したり、孫が生まれたりと自分に幸せなことがあった時には、みんなにもいいことがあるようにという願いを込めて寄付をしてきました。スターバックスで働くことで自分は幸せになったから、少しでも幸せのおすそ分けをしたいという思いです。お店で出会ったお客さんとも、私が働くことで頂いた幸せを分かちあえたらいいなと願っています」

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