社会から求められる「理想の母親像」に苦しむ女性たちがいる。『母は死ねない』(筑摩書房)の著者で、ノンフィクション作家の河合香織さんは「『母親はかくあるべき』『子どものため』といった考えが、母親や子どもに対して呪縛になっているケースがある。母親という生き方に正解はないはずだ」という――。
「自分はダメな母親」だと思っていた
――新刊『母は死ねない』では、夫からの暴力を受けた女性や、障がいを持った子どもを育てる女性、ママ友にいじめられて自死した女性など、たくさんの「母」が登場します。今回、「母」というテーマで執筆しようと思った経緯について教えてください。
母親は社会からの理想像を押し付けられているのではないか、という問題意識があり、さまざまな女性を取材し始めました。「母は死ねない」という枠組みが決まってから取材依頼をした方もいらっしゃいますし、自分の身近な友人や知人の体験談をもとに執筆したケースもあります。
――河合さんご自身も、母親としては当事者ですよね。取材をされていく中で、「母」としての考え方に変化はあったのでしょうか。
取材を通して、自分が「母親とはかくあるべき」という思い込みが1枚1枚剝がれていくような思いがしました。
たとえば、耳が聞こえないある母の子どもは、数十万人に1人の難病をもっていました。取材した際に、「お母さんのせいで『ごめんね』とか『悪かった』とは思わない。誰のせいでもないし、自分を責めない」と話していらっしゃいました。私は、その母の毅然とした強さに胸を打たれました。
また、女性同士でパートナーシップを結んで子どもを育てている方も、互いを信頼しあうすごく良い家庭を築かれていて、定型的な家族でないことについて自分を咎めることはないわけです。
私はもともと、自分が「ダメな母親」なのではないかと思うことが多かったのですが、それはかくあるべき母親像に縛られていたのではないかと気づき、私自身も少しずつ楽になっていきました。