第一印象は「どう見ても20代30代のよう」
きっかけはスカウトだった。
2019年9月末に開催された認知症啓発イベントに、スターバックスはコーヒーブースを出店していた。ブースでは認知症の当事者がバリスタとなって、コーヒーをサーブしていて、山田さんは当事者をサポートするボランティアとして参加していた。
そこにいた町田金森店の店長・林健二さん(49)は山田さんの働きに一目惚れした。
「声の明るさ、動きの機敏さ、気の利き方、どう見ても20代30代のようだと思ったのが第一印象です。山田さんは高校生ボランティアに自発的に明るく指示を与えたり、認知症当事者にもさりげないあたたかなフォローをしていました。一方、『スターバックスさんのご厚意でコーヒーをサーブしています』と私たちを立ててくださることも忘れていらっしゃいませんでした。その細やかな心配りに心をつかまれました」
スターバックスが従業員の行動指針として大切にしていることのひとつが、「自ら考え、行動し、表現する」ことだという。まさにそれを体現しているかのような山田さんの働きぶりに、店長は惚れ込んだ。これは運命であり縁だと思い、声をかけた。
「新しくオープンする店があるので働きませんか?」
2カ月後にオープン予定だった南町田グランベリーパーク店では、幅広い世代や属性の人に働いてほしいと考えていたところだった。
50年間、働いたことがなかったが…
電話番号を聞かれたが、山田さんは、「若いイケメンがおばあさんをからかっている」のだろうと本気にしなかった。だが、翌日すぐに電話がかかってきた。
「一緒に働きましょう」と店長は熱っぽく誘った。
「私の年齢をわかっているんですか」
山田さんはそう言って、断ろうと思った。すると、店長は「冗談ではなく、僕は本気です」と言った。
山田さんは自分のことを必要とされてうれしく思う半面、この年までほとんど働いたことがないために、仕事が務まるのだろうかという不安も抱いていた。しかも若者が多いスターバックスでの接客だ。
「私はほとんど働いたことがありません。それに働くとなったら、髪の毛を染めたり、シワとりしたりしなくちゃいけないですかね」
山田さんが尋ねると、店長は笑った。
「そのままでいいです。ありのままの姿でどうぞ来てください」
山田さんは現在ひとり暮らしだが、2人の子どもと4人の孫がいる。子どもらに相談すると、「いいんじゃないの」と励まされた。「自分が働くことで、地域の高齢者を元気づけられたら」と思い、思い切って引き受けることにしたという。50年ぶりの仕事であった。