自宅待機中の温泉スタッフが集まった

天童温泉の窓口になってくれたのは、市内の地域活性化を手掛けるDMC天童温泉の旅行事業課の鈴木誠人さん。

「従業員も家でじっとしているのもつらいですし、少しでも収入の足しになればと思い、矢萩社長の提案を受け入れることにしました」(鈴木さん)

画像提供=DMC天童温泉
DMC天童温泉旅行事業課の鈴木誠人さん

王将果樹園からバイト代を出してもらう体制を整えて、自宅待機中の従業員に声をかけたところ、10名近い従業員が集まった。しかし、彼らの本職は温泉旅館のスタッフ。素人でもさくらんぼの収穫を手伝うことができるのか。

「まったく問題ありません。単純な作業の繰り返しなので、最初だけコツを教えれば、誰でもできる仕事です」(矢萩社長)

「さくらんぼ狩りの様子」を宿泊客に説明しやすくなった

結果的に、温泉旅館で休業中の従業員が、人手不足の農園を手伝うことで、お互いの悩みが解消される形となった。そして、今回の企画にはこれ以外にも、天童温泉側に2つのメリットがあった。

ひとつは、従業員がさくらんぼの収穫体験をすることで、宿泊客にさくらんぼ狩りの様子を詳しく説明しながら勧めやすくなる点である。収穫のトップシーズンの6月になると、温泉旅館も忙しくなり、従業員がさくらんぼ収穫の体験をすることができない。そのため、宿泊客からさくらんぼ狩りの質問をされても、曖昧な回答をすることしかできなかった。

しかし、今回、従業員がさくらんぼの収穫を手伝ったことで、自らの体験をもとに、宿泊客にさくらんぼ狩りが勧められるようになった。コロナ禍によって、従業員に収穫体験をしてもらう時間が作れたことは、温泉旅館にとっても、従業員の接客スキルを高める良い機会になったといえる。