温泉旅館と地元農家がタッグを組んだ
コロナ禍で日本全国の宿泊施設が大打撃を受けている。緊急事態宣言解除後も、人々の旅行に対する警戒心は強く、宿泊客が戻ってくるのは当分先になりそうだ。観光収入が減ることは、その周辺地域の経済や雇用にも大きな影響を与えることになり、コロナ禍による地方都市への打撃は計り知れない。
そのような中、温泉旅館と地元農家がタッグを組み、地域の観光業を盛り上げようとしていると聞いた。果たしてどのような秘策で、この危機的状況を乗り越えようとしているのか。詳しく話を聞いてみると、観光業の復活の糸口にもつながる斬新なビジネスモデルが見えてきた。
今年のさくらんぼ狩りはすべてキャンセル
山形県のほぼ中央に位置する天童温泉。11軒の宿泊施設がある温泉地で、交通の便の良さから、県内外から多くの観光客が足を運ぶ。しかし、コロナ禍の影響で4月上旬頃からほとんどの宿泊施設が休館。多くの従業員が自宅待機という状況になってしまった。
そんな折、さくらんぼの観光果樹園から声がかかる。
「お休みしている従業員さんに、うちのさくらんぼ農園の収穫を手伝ってもらえないか」
話を持ちかけてきたのは、天童市内にある王将果樹園を運営する「やまがたさくらんぼファーム」の矢萩美智社長。毎年、収穫シーズンになると2万人の観光客が来園し、さくらんぼ狩りを楽しむが、今年はコロナ禍によりお客さんはゼロ。丹精込めて作ったさくらんぼを食べてくれる人がいなくなってしまったのだ。
「東京ドーム2個分の敷地内には、毎年、臨時で20人のパートを雇わなければ収穫が間に合わないほど、鈴なりにさくらんぼが実を付けます。しかし、今年はさくらんぼ狩りに予約されたお客さまをすべてキャンセルさせていただいたので、収穫しなければならない量が増えてしまいました。2~3トンのさくらんぼは収穫が間に合わず、実をつけたまま破棄処分になってしまう状況でした」(矢萩社長)
頭を抱えた矢萩社長。しかし、天童温泉が休館するニュースを聞いて、もしかしたら、さくらんぼの収穫のお手伝いをお願いできるのではないかと思い、ダメ元で天童温泉に話を持ちかけたのだった。