筆者も竹森氏の「国内パスポート」発言は冗談だろうと思っていた。ところが同日に行われた参議院予算員会での公明党・浜田まさよし参議院議員の地方創生にまつわる質問に際し、

「私はパスポートという感覚があるのですけど……」

とまたもや「国内パスポート」の持論を展開した。竹森氏が二度も同じ内容を発言したということは、「国内パスポート」政策に本気である可能性を示唆しているのではないか。

竹森氏は、新型コロナウイルス対策のため政府が設置した「基本的対処方針等諮問委員会」の1人であり、政府の経済政策の方向性を決める経済財政諮問会議の委員も務めている。いわば、安倍政権のお気に入りの経済学者である。実際、消費税増税の際も参考人として国会に招致され軽減税率の導入などを事実上擁護していた。したがって、その発言は政府に対して一定の影響を与える可能性がある。いや、むしろ現政府の代弁をしていると捉えても良いのかもしれない。

つまり、安倍政権が「通行手形」の復活に前向きに取り組む可能性はゼロではないのだ。

WHOは警鐘を鳴らすが、各国の対応は…

実際、このような国内パスポートのモデルとして、EUでは現在「COVID-19 passport」が検討されている。

シェンゲン協定によってEU加盟国間の往来は自由化されてきた。しかし、新型コロナウイルスの蔓延により加盟国間においても国境封鎖や外出規制などといった制限措置を実施せざるを得ず、観光産業が深刻な打撃を受けている。そのため、ギリシャはEU圏内での旅行の再開を目指し、旅行者が渡航前に感染検査を受けることを義務付けたうえでの「パスポート」発行を求めている。

米国をはじめ他のいくつかの国においても、抗体検査で「抗体がある」と証明された人に「パスポート」を発行し職場に復帰させるという動きがある。各国は自国の生産力を回復するために、抗体検査を用いてどうにか建前を整えようと必死になっているのだ。

一方、WHOは4月25日、都市封鎖や移動制限緩和の基準として抗体検査を用いないように警告している。その理由は単純明快で「同一人物が新型コロナウイルスに感染しないという根拠はないから」としている。

ただし、経済再開を求める多くの国の指導者はWHOによる警告を真摯に受け止めない可能性もあり、依然としてどのような方向に事態が進んでいくかはわからない。