UberやWeWorkが赤字覚悟で割引クーポンを配るワケ
このように、革新的なアイデアで顧客満足度の高い製品を提供するだけではなく、ある種の狡猾さを武器にしながら、自社や自社を取り巻くステークホルダーも満足できるところまで考えて、初めてイノベーションが成立したと言えます。
UberやWeWorkのように、サービスのスタート時は赤字を許容しながら、ユーザ獲得のために割引クーポンをたくさん配るというビジネスモデルにするのも一つの方法です。事業をどのようにサスティナブルな形で発展させていくのかを、多様な観点で考えなくてはいけないのだと、デザインスクールでは叩きこまれました。
また、デザイン思考では、ターゲットユーザーや潜在顧客に、1対1で1時間ほど深く話を聴くデプスインタビューが大事だと言われていますが、人は無意識に選択し、決断する生き物なので、自分の行動の理由の全てを言語化できるわけではありません。
つまり、人の無意識を「解読」しないと、人に選ばれる製品を生み出せないのだと考えられます。
論理だけでは消費者の行動は読み取れない
そこで、デザインスクールで学んだのは認知心理学や行動経済学、文化人類学といった多角的な視点からのアプローチです。それらは主に、右脳と左脳の中心にあるような学問や知見でした。
認知心理学とは、知覚・記憶・思考など人間の認知活動について研究する心理学の一分野で、行動経済学は心理学の知見やデータを採り入れて、経済現象を分析する学問のことです。例えばワイン売り場でドイツの音楽を流すとドイツワインの売り上げが伸び、フランスの音楽を流すとフランスのワインの売り上げが伸びるという研究結果があります。
しかし、不思議なことに被験者に「そのワインを買った理由は何ですか」と聞いても、誰も音楽については触れません。なぜなら、人の無意識に働きかけているので、自分では意識していないからです。これは行動経済学の例の一つです。
いくらインタビューを重ねても、こうした無意識的な行動のトリガーを解読するのは難しい。そこで行動経済学といったナレッジを組み合わせて、「なぜそうなるのか」という理由を探らないと、せっかく生み出した新製品であっても、消費者に選んでもらえなくなる可能性があります。