プレゼン資料50枚よりもインパクトのある説得材料

このように、自分自身が論理モードから抜け出すのも簡単ではなかったのですが、それ以上の難題は、周りの人の論理モードを感性モードに変えることです。

たとえば、プレゼンするときにはまずマーケティングやリサーチをして、「最悪の状況を想定してリスクを数値化しておこう」などと考えて、パワーポイントで50ページ以上の資料を作っている人もいるかもしれません。

しかし、資料も大事ですが、それだけでは相手を論理モードから抜け出させることはできません。

数字や統計をもとに説明すれば、いくら画期的なアイデアであっても、「この売り上げでは足りないね」「イニシャルコスト(初期投資)が多すぎる」と、すべて論理的に判断されてしまいがちです。その結果、斬新な企画が通らなくなるのが、多くの企業で起きていることだと思います。

プレゼンには五感に訴えかけるような仕掛けを盛り込む

Takramでクライアントに最終的なアイデアを提案するときは、基本的に説明→納得、という流れではなく、実際に体験してもらうようにしています。

一例として、机の上にプロトタイプを並べたり、ビジュアルの写真を壁に貼ってギャラリーを見るような感じで最終成果物を見てもらう試みをしています。BGMを流すこともありますし、椅子を取り払って、立ってプロトタイプを触ってもらいながらプレゼンを聞いてもらうこともあります。

壁のスクリーンの横に立って発表者がプレゼンをして、それを取り囲むように椅子を並べてオーディエンスがいるという場では、人はロジックモードになりやすいのです。

五感に訴えかけるような仕掛けをつくり、プレゼンテーションを聞く人をロジックモードから感性モードにするための場を設計すれば、皆の柔軟性を呼び覚ますことができます。

はやりの「デザイン思考」だけでは足りない

「なんだ、デザイン思考の話じゃないか」と思う方もいるかもしれません。近年、日本でもデザイン思考の本は多く出版され、話題に上ることが増えてきました。一方で、「デザイン思考を導入しても、うまくいかない」という意見もよく耳にします。

日経クロストレンドの「デザイン思考とは何か、なぜ必要か」(2018年12月25日)という記事によると、デザイン思考を取り入れていると回答した企業は14.9%。そのうち、浸透している企業はわずか5.5%でした。

これはデザイン思考だけを取り入れても、ビジネスの現場ではうまく機能しないケースが少なからずあるということを指しています。