広報資料の「退院者」には死亡者も含んでいた

なぜマスコミは退院者数を報じないのか。マスコミが報道の根拠としている東京都の報道発表資料を見てみると、その日新たに発生した患者数、年代、性別、現在の都内患者数などが公表されている。現在の都内患者数の項目には、重症者、死亡者(累計)、退院者数(累計)も掲載されている。

都によると、実はこの退院者数の下には、4月21日までは註釈として「※退院には、死亡退院を含む」と書かれていたという。

つまり、「治療を終えて退院した人」と「入院中に亡くなった人」の数を足したものが公表されていたのだ。当然ながら、その数字は新型コロナ情勢を正確に表すものとはいえない。都が公表する「退院者数」が実態と合っていない以上、マスコミも報道に使用するわけにはいかなかったのだ。

マスコミ関係者はこう話す。「退院者数の推移をグラフで作成しようとしても、死亡退院を除外した“実質の退院者数”は公の広報資料に途中から加わったものなので、作れないのです」

都はプレジデント社の取材に対し、「病院の統計では死亡退院を含むのが通常なので、広報資料でもそれに倣っていた。しかし、わかりづらいという問い合わせを受けて、4月22日から死亡退院を除外した数字を掲載している」と答えた。

たしかに、感染者数だけ発表されても、それではまるでコロナが不治の病かのようにも見方によっては思えてしまう。

全社的に「もうわけがわからない」状態に

別のマスコミ関係者はこう話す。

「最初は感染者が一人出るごとに速報を流して、大々的に報じていたのですが、それが一日の感染者数がドンドン増えていくごとに、現場も混乱していきました。退院者数まできちんとケアできなかった、というのが現状かもしれません。ちょうど春の異動の時期でもありすし、全社的に『もうわけがわからない』状態になっています。それに、新聞社なんかは超文系が多いですからね、そもそも数字に嫌悪感を持つ人は多いです。あえて数字を正確に書くのを避けて、『約○人』『○人以上』などと逃げて書きたがる記者は多いと思います」

また、こうも付け加える。

「これは今回のコロナ騒動に限らずの話ですが、例えば200人が乗っていた旅客機が墜落して198人が死亡し、2人が奇跡的に生還したとします。おそらく、多くのマスコミは『旅客機墜落で乗客ら198人死亡』と見出しを打つでしょう。それは大勢が一斉に死んだ事実の方が、数名が生き残った事実よりもニュースバリューが高い、と判断するからです。もちろん2人生き残ったことも報じることになるのでしょうが、あくまでもメインとなるのは死亡人数でしょう。今回のコロナでもそれに似た現象が起きたのかな、と感じます」