「虫歯によって抜歯が起きるのは20代から80代までで、それについては全世代でそれほど大きく数に変化がありません。しかし40代以降は、虫歯に加えて歯周病や破折の原因による抜歯の本数が増え、ピークは60代後半。歯を失わないためには歯周病を悪化させないこと、そして歯の破折、つまり歯が割れてしまうような事態を減らすことです。

どういう歯が割れるのかというと、神経を抜いている歯です。虫歯になって治療によって神経を抜く。すると歯の中が空洞になって、強度が下がり、割れやすくなるのです」

米国では神経を取って6年経過すれば、その歯が機能を保てなくなっても、歯科医は患者からの訴訟対象にはならないといわれる。日本では6年でダメになることはないだろうが、「歯の神経がなくなる」ということは、それぐらいリスクがあることだと心したい。

「神経を取ると、もう1度その歯が虫歯になったときに痛みを感じにくい。神経を取って銀歯などをかぶせていると、エックス線を撮っても白く写るだけで、歯科医も、銀歯を開けてみないと中がどうなっているか正確に判断できません。症状が悪化すれば、ある日突然、銀歯がボロッと取れることも……」(小川原医師)

銀歯をかぶせる治療は、たとえるとズボン(歯茎)の中にシャツ(銀歯)を入れるように設計されている。ところが、老化や歯周病が原因で歯茎が下がっていくと、歯茎と銀歯の間に徐々に隙間ができてしまうのだ。一般的に歯茎は10年で2ミリメートル下がるといわれ、20代のときと比べれば50代では歯茎が6ミリメートルも下がっていることになる。その隙間から細菌が入り込むリスクが高くなるという。

「だいぶ前に治療した歯で、銀歯の下端が見えているような状態であれば、1度試しに歯科で銀歯を外してもらうといいでしょう。中で何かが起きている可能性が高いです。早めに処置すれば、もちろん歯を失わずに済みます」(同)

日本で予防意識が低い意外な理由

どんな歯もその寿命を延ばすには、定期的な検診が必要だ。それも30代、40代のうちから通う習慣があると望ましい。しかし残念ながら日本では、内科や眼科などの他の科と比べて「歯科」に対する“予防意識”が非常に低い。小川原医師は「保険診療がある日本は、安く治療を受けられることで、かえって予防に対する意識が低くなってしまう面がある」と嘆く。

小川原医師がかつて診療していたシンガポールでは、日本のような健康保険がないため、治療費が高くならないように患者が進んで検診を受け、歯の病気を予防する意識を持っているという。その結果、日本人と比べて歯周病の罹患率は変わらずとも、重症化する人が少ない傾向にある。最低でも年に一回検診を受けていれば、長く通い続けなければならないほど虫歯も増えない。