歯医者に行く機会は決して多くない。ゆえに、行きつけが「いい歯医者」なのか判断するのは難しい。それでは専門家から見た「いい歯医者」とは何なのか? その隠れた基準を明らかにする。

「歯を残す努力」は必要なのか?

最後に「頼れる歯科医」の見分け方だが、筆者が信頼する内科医10人に「歯科を選ぶ基準」を聞いてみた。

すると「1つの治療法にこだわらず、いくつかの方法を掲示してくれる」「治療する歯だけでなく、生活習慣のアドバイスがある」などの声が挙がった。歯科医自身からは「難しい症例のときに、自分のところだけで解決しようとせず、他院へ紹介する」という指摘もあった。要は何が本当に患者のためになるか考えてくれる、ということだろう。

メディアでは「歯を残す努力をするかどうか」が指針に挙げられることも多いが、私はこれには否定的だ。あるベテラン歯科医も「一本の歯を守ろうとするあまりに、ほかの歯が共倒れになってはいけない」と話す。例えば歯と歯の間の骨部分は共有部分のため、そこが蝕まれてしまうと、最終的に2本とも使えなくなる。やはり“どうしても抜かなくてはならない”ケースはあるのだ。

結論としては、生活習慣のアドバイスや根管治療など「保険点数(お金)にならない部分をしっかりやる歯科医」が、信頼できるといえるかもしれない。根管治療とは、歯の神経を取ったとき、神経が通っていた歯髄と呼ばれる箇所の細菌を一掃する治療。丁寧に行うと長く歯を残せる率が高まるが、細かな作業で時間がかかるうえに、保険点数がつかない。そのため根管治療をきちんと行う歯科医は3割程度ともいわれる。

「根管治療が必要な患者さんを連続で30分ずつ治療したとします。3割負担だとしたら1人あたり300円弱、1時間で600円、10割でも2000円程度の売り上げ。スタッフの時給を考慮すれば赤字です。『歯科医は儲からない治療はやらない』などと週刊誌で批判されることもありますが、安くても時間がかかっても、自分を律して頑張っている歯科医もいる。今の日本の歯科治療体制では“保険点数にならない部分”が非常に大事ですから」(某歯科医)

頼れる歯科医を見つけるとともに、私たちも自分の歯を守るために努力しよう。表に「いい歯を守る8原則」をまとめた。今ある歯を一本でも多く残すため、できることを今日から実践してほしい。

▼今日から実践!いい歯を守る8原則
①努めて硬いものを噛む
食材を大きめに切る。ごぼうなどの根菜類やフランスパン、りんごなどを食そう
②酸性度の高いものを食べた直後に歯を磨かない
もし磨くならいつも以上に柔らかく優しく
③一日一回は5分以上の歯磨きを
就寝中は唾液の分泌量が低下するため細菌が増えやすい。就寝前がお勧め
④フッ素を積極的に
国内ではフッ素濃度1500ppmを上限とした歯磨き粉の販売が認められている。できるだけ高濃度の歯磨き粉を選ぶべし。緑茶も◎
⑤「口の渇き」に注意せよ
歯周病や虫歯のリスクが上がる。適宜水分で口を湿らせたり、酸っぱいもので唾液腺を刺激
⑥喫煙は×、お酒はほどほど、薬の副作用に気を配る
喫煙は口腔内の血流を悪くし、アルコールは脱水症状を起こしやすく、唾液量を減らす。薬の副作用に「口の渇き」がないか気を配る
⑦就寝中の「口呼吸」「歯ぎしり」を防ぐ
ドライマウスになりやすい口呼吸に対し、就寝中は「口呼吸防止テープ」を。食事のときの噛む力と比べて6倍も歯に負担がかかる「歯ぎしり」。歯の寿命を確実に縮めるため、歯科で自分の歯型に合うマウスピースを作ってもらおう
⑧「頼れる歯科医」のもとで定期的な検診
「1つの治療法にこだわらず、いくつかの方法を掲示してくれる」「治療する歯だけでなく、生活習慣のアドバイスがある」「地元の人が通っている」などの歯科医院を選ぶ
王宝禮
王宝禮(おう・ほうれい)
大阪歯科大学教授
北海道大学歯学部助手、米国フロリダ大学歯学部研究員、松本歯科大学教授などを経て、2010年より現職。
 

小川原元成
小川原元成(おがわら・もとなり)
池袋西口小川原デンタルクリニック院長
1998年、シンガポールに日本人初の歯科医師として赴任。2012年に帰国後、現職。
 

望月理恵子
望月理恵子(もちづき・りえこ)
管理栄養士
健康検定協会理事長。企業や医療機関の監修・栄養顧問として、栄養・美容学の分野での情報発信を行う。
 

服部佳功
服部佳功(はっとり・よしのり)
東北大学大学院歯学研究科教授
1963年、三重県生まれ。87年東北大学歯学部卒業。91年同大大学院歯学研究科修了。
 

飯島勝矢
飯島勝矢(いいじま・かつや)
東京大学高齢社会総合研究機構教授
1990年東京慈恵会医科大学卒業、スタンフォード大学医学部研究員などを経て、2016年より現職。
 

斎藤一郎
斎藤一郎(さいとう・いちろう)
鶴見大学歯学部教授
日本抗加齢医学会理事。口腔乾燥症(ドライマウス)や老化研究に長年従事する。
 

亀山敦史
亀山敦史(かめやま・あつし)
松本歯科大学歯科保存学講座教授
同大学病院副歯科病院長。医療法人亀山歯科医院副院長、東京歯科大学准教授などを経て、2019年より現職。
 
(写真提供=亀山敦史)
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