口腔粘膜からは味だけでなく、食べ物がもつ温度(冷、温)などの情報が“脳への刺激”となって唾液分泌が促進されるという報告がある。旨味成分は脳に届きやすい。望月氏は「さまざまな食材、調理法を組み合わせて、食事に変化を与えることで脳に刺激が伝わりやすくなり、唾液に影響するのではないか」とみる。

酸の取りすぎで若者の歯が溶ける?

唾液分泌には有効な「酸っぱいもの」だが、気をつけたいこともある。実は最近、若い人でも“酸性度の高い食生活”の影響で、「酸蝕症」という病を患う人が増えているのだ。酸の影響で歯がガラスのように薄く折れやすい状態になってしまったり、歯が溶けてすり減ってしまうのが特徴だ(写真)。溶けてしまった歯は二度と元に戻らないため、十分に気をつけたい。松本歯科大学歯科保存学講座の亀山敦史教授が注意すべき生活習慣を挙げる。

健康酢で歯の表面がドロドロに溶けた状態(左)。クエン酸をコーラで服用するのを繰り返していた患者の歯。詰め物が浮き出ているように見え、歯が大きく減っているのがわかる(右)。
健康酢で歯の表面がドロドロに溶けた状態(左)。クエン酸をコーラで服用するのを繰り返していた患者の歯。詰め物が浮き出ているように見え、歯が大きく減っているのがわかる(右)。

「炭酸飲料や柑橘系果実、梅干しなどは酸が強く、歯が溶けやすい。一日2個以上柑橘類を食べる、清涼飲料水を週に4~6本以上、またはスポーツ飲料を週に1本以上飲む、就寝前の健康酢愛飲などは酸蝕症のリスク要因。どの年代にも起こりえます。ジョギング好きな人がほっぺたの裏側にレモンの輪切りを挟んだまま走ることを習慣にしていたら、歯が溶けた例もありました」

疲労回復にクエン酸系のドリンクを飲んでいた人も、ちょっとした衝撃で折れやすいほど歯が薄くなっていたという。

またアルコールの中では、なんとワインの酸が強く、歯が溶け、すり減りやすい。

「特にワインは口の中で風味を楽しむようなところがあります。ワインを飲んだ後は口を軽くすすぐ、水を飲んで中和するといいでしょう。また酸は食事と一緒に取れば唾液によって自然に中和されて、口腔内の酸性が和らぎます」(同)

口の中では常に、脱灰と再石灰化を繰り返しながら「中性」を保っているが、酸蝕症は「酸性」に傾いた状態といえる。ちなみに虫歯も、細菌が糖分を食べて酸を出し、口腔内が酸性に傾くことで進行しやすくなってしまう。