健康でいるためには栄養が必要であり、栄養を摂取するためには丈夫な歯が欠かせない。もしその歯が抜けてしまったら、一体体に何が起きるのか? 「生きる力」に直結するという歯の本数に注目した。

煎餅を噛むのに必要な歯の本数とは?

さて、ここで疑問に思う人がいるかもしれない。そもそも「歯を失う」と何が良くないのだろうか?

大人の歯の数は親知らずを含めて上下16本ずつで合計32本。実は歯の本数が減るほど“噛めるもの”が減っていく。

タクアンやフランスパンを噛むためには18本以上の歯が、煎餅やおこわを噛むには15本程度が必要で、11本以下になると「おいしい」という感覚が衰えてしまうといわれる。5本以下の歯ではバナナやなすの煮付けのような、軟らかいものしか味わって食べることができない。管理栄養士の望月理恵子氏によると「自分の歯が20本保てるかが境目」という。

「20本以上の歯がある人と、19本以下の人の野菜摂取量に差があるという研究もあるんです。残っている歯の本数によって食べられるものが少ないと、取れる栄養分にも偏りが出てきてしまう。歯が抜けた本数が多いほど肥満や生活習慣病になりやすかったり、善玉コレステロールが減るという報告もあります」

噛む力が低下すると軟らかいパンやおかゆ、うどんなどの炭水化物に偏りがちで、血糖値が上昇しやすく、糖尿病につながる恐れがある。歯は主にカルシウムとタンパク質からつくられるため、噛めないことでそれらの栄養素が不足しがちになって、丈夫な歯がつくられない。筋肉も維持しづらくフレイル(健康と要介護の中間的な段階)に、そして将来的に寝たきりや死亡リスクも上昇する。

「歯がなくなると、口のまわりに縦ジワができやすくなり、見た目も老いていきます」と望月氏。

噛めなくなると脳の老化スピードが速まるという報告もあり、認知症を発症しやすくなる。脳と体の健康、食事の楽しさ、美容面に影響を与える「歯の本数」は、“生きる力”に直結するといえよう。

それでは歯の本数が減っていくのはいつ頃からか。自然に歯が抜けることは稀であるため、歯科医院で抜歯をするケースを考えよう。5000人を対象にした「永久歯の抜歯原因調査」では40代後半から抜歯本数が少しずつ増えている(表)。抜歯原因のトップは歯周病だ。次いでう蝕(虫歯)、破折と続く(表)。東北大学大学院歯学研究科の服部佳功教授が説明する。

抜歯本数が増えるのは40代後半から