休校で失われた学習機会は一生取り戻せない
休校していた間の学習量は、コロナ感染が収まってから取り返せばよいという議論もあろう。しかし、取り返せるとは限らない。
ノーベル経済学賞受賞のジェームズ・ヘックマンによれば、忍耐力、やる気、自信、協調性などに関わる能力、いわゆる「非認知能力」こそが収入や社会生活の豊かさに結びついている。しかも非認知能力は5歳までの幼児教育によって大幅に向上するが、その後の伸びは鈍い。アメリカの作家ロバート・フルガムが『人生に必要な知恵は全て幼稚園の砂場で学んだ』(河出文庫)と言ったのは、全くもって正しいのだ。
しかし今、幼稚園や保育園は休園し、公園で遊ぶことも自粛を求められている。だから今の幼児は、「砂場」で友だちや大人から学べるはずの貴重な非認知能力を習得できないでいる。コロナ後の世界でその遅れすべてを取り戻せるわけではない。
日本の子供たちが既に被っている不利益
子供の教育格差が拡大する可能性も大きい。学校、特に私立校によってはオンラインで授業を行っている。生徒・児童によってはオンライン塾や家庭教師のサービスを受けている。私立校やオンライン塾に通える経済的余裕があるかどうかで受験の結果に差が出てくれば、コロナショックによる格差は生涯にわたって続くことになる。
教育の現場においても、少なくともオンラインでは授業を継続すべきだ。むろん、コンピュータやタブレットなどインターネット端末を持っていない児童・生徒がいるという問題はある。しかし、そのような子供には学校のコンピュータを使わせるなど、やろうと思えば解決策はいくらでもある。
また、多くの子供がオンラインで授業を受ければ、インターネット回線が混雑することも懸念されている。しかし、毎回リアルタイムの授業をオンラインで行う必要はなく、よい教材と課題を活用すればリアルタイム授業の配信は最小限でよく、回線への負担は抑えられる。
筆者の知る限りでは、コロナショックで公立の学校でオンライン授業を積極的にやっていない先進国は日本だけだ。途上国であってもオンライン授業をやっている学校も数多い。日本の子供たちだけが生涯にわたる不利益を被らぬよう、政府・自治体は全国の学校に対してオンライン授業が実施できるよう本気で支援をしてもらいたい。
ただし、やはりオンライン授業にも限界がある。直近のアメリカでの調査によると、オンラインの授業を受けた学生は、対面式にくらべて50%が「悪くなった」、13%が「やや悪くなった」と回答している。
だから、対面式の授業をできるだけ早期に再開する必要もある。子供には「砂場」が必要なのだ。そのためには、事業所に対する指針と同じく、どのような予防策を講じれば対面式の授業を再開できるのかについて政府が研究をして、詳しい指針を出すべきだ。