おおざっぱすぎる「接触減8割、出勤減7割」の掛け声

こうした実態に即して、政府はある程度は事業所での勤務を容認するべきだ。そのためには、おおざっぱに8割の接触減、7割の出勤減を要請するのではなく、どのような接触は減らすべきで、どのような接触は許容されるのか、きめ細かに指針を出すことが必要だ

オフィスや工場、飲食店等でどの程度の密度でどのような予防をすれば、仕事を続けてもいいのか。例えば、出入りの際の検温や消毒を行い、人と人とが十分に距離を保った上で、適切な換気設備が備えられているならば、事業所での活動は容認されるのか。

そのような指針があれば、経済への影響を最低限にとどめることができるはずだ。今のように何も指針がなければ、各企業の判断で3密の事業所であっても活動しているような実態がある。きちんとした指針があれば、そうした状況も改善できるはずだ。そして職場環境の整備に対して、政府・自治体が十分な資金的な支援をすることも求められる。

このような設備投資には、経産省の「ものづくり補助金」が受けられるはずだ。しかしこの補助金は、「新型コロナウイルスの影響を乗り越えるために前向きな投資を行う事業者」を対象にするとあるものの、必ずしも消毒や換気のための設備、作業者の距離を広げるためのラインの改編などは対象として明記されていない。これらの設備投資も対象としたフレキシブルな対応が望まれる。

いずれにせよ、経済活動を継続するためのこれらの支援、言ってみれば「攻めの支援」を拡大することが必須だ。国民に対する一律10万円給付や事業者に対する休業補償のような「守りの支援」も、この厳しい状況をとりあえずしのぐのには役に立つだろう。

しかし、10万円ではコロナが収まるまではしのげない。国民が長期にわたって持続的に生活できるようにするためには、少しでも経済を回していくことが必要で、そのための攻めの支援も惜しんではいけないのだ。

2カ月の休校で生涯賃金は300万円ダウン

次に、教育への影響も無視できない。多くの小中高校では3月2日から休校となっている。地域によってはすでに開校しているところもあるが、緊急事態宣言が出された地域では、少なくとも5月6日までは休校が続く。大学でも4月の新学期開始を5月以降に遅らせているところがほとんどだ。

休校が長引けば、児童・生徒の能力形成が阻害され、生涯にわたって現在の子供たちを苦しめることになる。なぜなら、教育によって所得が上昇することは明らかだからだ。

例えば、慶應大学の中室牧子らの研究では、教育を1年受けることでその人の賃金は生涯にわたって平均的に9.3%上昇することがわかっている。単純に計算すれば、2カ月休校することで、現在の生徒・児童の将来の所得は1.5%程度下がってしまうことになる。生涯所得を2億円とすると、これは約300万円の損失に相当し、決して少ない額ではない。